芳麗

芳麗

NHK山形放送局のキャスター業を経て、ライターとして活動開始。デビュー雑誌がMORE! 以来、10年以上にわたってMOREで執筆。 ロングインタビュー、 女心をつかんだコラムに定評があり、書籍、雑誌、WEBなど数多くの媒体で連載・執筆する。著書『相手も自分も気持ち良く話せる秘訣』『Love リノベーション』(主婦の友社)など。
【公式HP】http://fafa-yoshirei.com/

【ごあいさつ】 MORE読者のみなさん、こんにちは! 芳麗です。 ここでは、恋に効きそうなカルチャーやライフスタイル。わたしが恋したこと、もの、人を紹介していきますね。よろしくお願いします。

映画『白河夜船』―夜と恋の出口を探してー

映画『白河夜船』―夜と恋の出口を探してー_1
映画『白河夜船』より ©2015よしもとばなな/『白河夜船』製作委員会
よしもとばななさんの小説は、心の痛みに効く不思議なクスリのよう。
優しく染みいって、隠れた傷の在りかとありようを教えてくれる。そっと触れて手当てしてくれる。『白河夜船』は、とりわけ効いた。初めて読んだのは、たぶん、高校生の頃。いちばん苦しかった19歳の時は繰り返し読んだ記憶がある。
コドモと大人、理想と現実の乖離についていけず、寂しさや不安にさいなまれ、夢の中に逃亡してふわふわと漂っていた――。当時の自分にとってのお守りであり、常備薬のような小説。

2015年、この小説が写真家・若木信吾さんの手によって映画化されると聞いた時は、嬉しかったと同時に想像がつかずにわくわくした。
完成した映画版『白河夜船』を鑑賞すると、そこには、小説に限りなく近い作用があった。

もちろん、映像作品だからこそ、安藤サクラさんや井浦新さんが演じて若木さんが撮ったからこその希少な魅力もたぶんにあります。そこには、物語だけど、「今ここ」にある街の風景や役者たちのその人にしかない人間味も映し出されていました。

静謐にして、ドラマティック。そして、何だかとてもドキドキする映画です。
(それはアクションやホラー映画とはまったく異質のドキドキ)

ドキドキする理由のひとつは、前述の通り、ドキュメンタリー性が強い映画だから。台本はもちろんあるのでしょうが、シーンによっては、どこまでがアドリブやアクシデントなのか、分らなくてドキドキします。
手持ちのカメラで、役者の自由な動きや移りゆく景色に合わせてひたすら長回ししているシーンも多い。たとえば、曇り空の海のシーンはアドリブで15分も撮影し続けていたと聞くし、中華料理店のデートシーンは、不倫の恋の最中にいる2人が黙々と食事をする姿が長く続く。いずれも生っぽくて、危うくて、切ない。とても印象的な場面です。

ドキドキする。もうひとつの理由は、主演の安藤サクラさん。表情やセリフはもちろん、姿勢や動き、ナレーションにいたるまで、身体と心と五感とすべてを使いきって、寺子のいわく言い難い寂しさや繊細に揺れ続ける心を、深遠に表現している。
観ているうちに、どんどん引きこまれ、からめとられ、他人とは思えなくなっていく。まるで彼女が自分の分身であるかのような、親友であるかのような錯覚に陥ってしまう。

寺子の寂しさを包み込むように愛する不倫の恋人、岩永役の井浦新さんもとても魅力的なのですが、2人の間に流れている感情と空気にまたドキドキする。不倫の恋の寂しさやズルさや愛しさを痛切に表していて。

親友役である谷村美月さんも同様に、サクラさんとの間にすばらしい化学反応を生んでいます。

物語のテーマは、“眠り”です。
主人公の寺子(安藤サクラ)は、不倫の恋に陥り、無職ながら働く意欲もわかず、不安定な状況に心身を預けるうちに、ひたすら眠くなる。日に日に、深く長い眠りに落ちていく。親友のしおり(谷村美月)は死という“眠り”につき、不倫相手である岩永(井浦新)の妻は、植物人間状態で入院して“眠り”続けている。

出口のない日々、不安定な関係性に、揺れる思いを抱えながら、眠り続ける寺子に訪れた小さくも不思議な出来事とは――。


大人になって、あの頃よりも広い世界に出て、大人の分別や行動力を身につけたつもりの今も、ふと、閉塞感を感じることがある。生と死の、夢と現実のはざまにあるブラックボックスに落ちてしまう瞬間がある。夢の中ではまだ、出口を探しているのかもしれないし、探し続けることが現実なのかもしれない。
それでも、「今、ここ」で日々を過ごすこと、愛することは貴重だし、不可思議だから楽しい。

19歳だった私と、あれから20余年も経過した今の私の両方が癒されました。

過去の自分と、近くや遠くにいる愛する人とシェアしたい映画です。

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