いげちゃんのコツコツSDGs MORE

日々、よく耳にする“SDGs”という言葉。なんのために取り組むの? 私にできることは何? SDGsに興味を持ち始めた井桁弘恵が、そんな疑問に向きあいます!

【Vol.37-1】韓国フェミニズム文学を通して、ジェンダー平等を考えよう

2018年頃から、韓国文学が日本で大きな注目を集めるようになりました。その中でも特に、フェミニズムをテーマにした作品は多くの読者から支持を集めています。
そこで今回は、日本における韓国文学ブームの立役者・韓国書籍専門出版社「クオン」の代表であり、神保町にあるブックストア「CHEKCCORI(チェッコリ)」を運営されている金 承福(キム・スンボク)さんに、韓国フェミニズム文学の盛り上がりの背景や、現在のトレンドについてお話をうかがいました。

What’s SDGs?

SDGs ゴール

国連で採択された、2030年までに達成すべき17のゴールのことで、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。私たちが地球に住み続けるために、貧困、飢餓、環境、教育、ジェンダー平等などの問題を世界が協力して解決することを目指す。

教えてくれたのは……

韓国書籍専門出版社「クオン」代表/ブックストア「CHEKCCORI(チェッコリ)」店主
金承福(キム・スンボク)さん

韓国書籍専門出版社「クオン」の代表。神保町のブックカフェ「CHEKCCORI」の運営も行っている。

韓国フェミニズム文学はどこから?

金さん「『82年生まれ、キム・ジヨン』で一般化したフェミニズム文学」

井桁弘恵 MORE SDGs

いげちゃん:フェミニズム文学が韓国で一大ムーブメントになったのは、いつからですか?

金さん:2016年5月にソウル・江南駅付近で発生した女性殺人事件をきっかけに、韓国国内でフェミニズム運動が活発になりました。また、同じ年に、家庭内での女性の生きづらさを描いた『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)が出版され、フェミニズム文学はより広く一般に浸透していきました。

でも実は、それ以前から韓国にはフェミニズム文学はたくさんあったんです。たとえば、フェミニズムの母親とも呼ばれている詩人キム・ヘスンさんや、2024年にノーベル賞を受賞したハン・ガンさんの作品などがその代表例ですね。

いげちゃん:そうなんですね! フェミニズムの母親と呼ばれているキム・ヘスンさんは、どういった詩を書かれているのでしょうか?

金さん:彼女の詩には、共通して「女性は弱い存在ではない」というメッセージが込められています。一例として、女性が子供を産むという行為を、新しい世界を創造することだと書いていたり、詩集『死の自叙伝』では、儒教の価値観が根強く残る家父長制の韓国社会において、女性として生きることの苦しさや葛藤がつづられています。

井桁弘恵 MORE SDgs

いげちゃん:フェミニズム文学が一気に広がるきっかけとなったという『82年生まれ、キム・ジヨン』は、日本でも出版されて大きな話題になりましたよね。

金さん:そうですね。2018年に日本でも出版されて、これが韓国のフェミニズム文学が注目されるきっかけになったと思います。

いげちゃん:そういえば、女性のK-POPアーティストが、最近読んだ本としてこの本を紹介したことで炎上した、という話を聞いたことがあります。それはなぜだったのでしょうか?

金さん:その背景のひとつには、徴兵制がありますね。一部の男性たちは、権利を主張する女性たちに対して、「僕らは軍隊に行かなければならないのに、女性は行かなくていいなんて不公平だ」と反発しているんです。

こうした意見のぶつかり合いは、特に20代の若者の間で顕著に見られるんです。そのため、そのアーティストの発言も一部の男性の反発を買い、結果的にバッシングへとつながってしまったんだと思います。

いげちゃん:そうした背景があったとは。そのような対立が20代の間で特に顕著だというのには驚きました。

最近の韓国フェミニズムのトレンドは?

井桁弘恵

いげちゃん:最近はどんなジャンルのフェミニズム文学が増えているんですか?

金さん:「新しい家族の形」「非婚」をテーマにした作品ですね。実は非婚を扱った本は以前からあったのですが、社会の変化や人々の意識の高まりとともに、改めて注目されるようになってきて出版数も増えています。

たとえば、『女ふたり、暮らしています』というエッセイが人気です。韓国の人気コピーライターと元ファッション誌編集者の共同生活をつづった作品で、数年前に日本でも翻訳本が出て話題になりました。この作品はアメリカでもすごく読まれているんですよ。

いげちゃん:アメリカでも! それだけ、結婚以外の生き方に関心を持つ人が世界中で増えているということですね。

フェミニズム文学の影響力とは?

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いげちゃん:韓国フェミニズム文学が出版されたことで、韓国社会におけるジェンダー平等や女性の権利に対する意識の高まりなど、何か変化を実感することはありますか?

金さん文学というのは社会の変化の中でも、最後のほうに姿を現すものだと思っています。つまり、文学が生まれるということは、それまでに多くの闘いや試行錯誤があったという証拠であり、書籍化しようという話が持ち上がった時点で、その社会問題はすでにある程度認知されていると言えます。

そして、本として世に出ること、さらにそれが映像化されることで、そのテーマがより多くの人に知れ渡り、私たちが向き合うべき「当たり前のこと」として受け入れられていくのだと思います。

いげちゃん:文学は、すでに起きている社会の変化にスポットライトを当ててくれる存在なんですね。

金さん:はい、そうですね。ひとつの社会的なテーマが、小説や映画といった形で表現され、共有されていくこと。それがよりよい社会につながっていくと、本に携わるものとして信じています。

いげちゃん:私もそう思います。ありがとうございました!

▶︎▶︎▶︎次回は、金さんに初心者におすすめの韓国フェミニズム文学を教えていただきます。

CHEKCCORI(チェッコリ)

出版社「クオン」が運営する、韓国書籍専門書店。エッセイから小説、コミックまで幅広い韓国関連本が韓国語原書で約3500冊、翻訳本をはじめ日本語で読める本が約500冊そろう。

📍東京都千代田区神田神保町1丁目7-3 三光堂ビル3階
📞03-5244-5425
⏰12:00~19:00(土曜日は11:00~19:00)
休み/日曜・月曜 ※火曜日はレンタルのみ
https://www.chekccori.tokyo/

【井桁弘恵 衣装クレジット】
ビスチェ¥9790/クロスプラス(ELLEgirl) カットソー¥4290/アンティローザ(AUNT MARIE‘S) イヤリング¥5500(eije)・ネックレス¥3520・リング¥3300(どちらもヘンカ)/ロードス

撮影/山根悠太郎(TRON) モデル/井桁弘恵(モア専属) ヘア&メイク/沼田真実(ilumini.) スタイリスト/小林優奈 取材・文/海渡理恵