ダンサーが踊りで表現する「第九」にうっとの画像_1

日本では年の瀬になると「第九」の合唱が恒例行事になっていますが、今回紹介するのはベートーヴェンが作り上げた「第九交響曲」の世界観を、オーケストラと合唱、そしてバレエで表現するという、一大プロジェクトを描いたドキュメンタリーです。この舞台版の「第九交響曲」は、「春の祭典」や「ボレロ」などを手がけ、バレエ界に革新をもたらした天才振付家モーリス・ベジャールの振付けによって1964年に初演されたもの。ダンサーやオーケストラ、合唱団を含めた総勢350人が繰り広げるコンサートとして衝撃を与えた名作です。 その後も世界各地で上演されてきたものの、1999年のパリ公演を最後に途絶え、ベジャール自身も2007年にこの世を去りました。映画では「第九交響曲」が誕生して50年を迎えた2014年、モーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団がタッグを組み、再び世に送り出すプロジェクトに密着。東京で開催される本番にむかって、過酷な練習に挑むダンサーの姿を捉えていきます。特に注目は、第2幕のメインを踊る喜びを噛み締めていた矢先に妊娠が発覚し、キャリアと女性としての幸せの間で揺れ動くソリスト、カテリーナ・シャルキナの葛藤。共感せずにいられないドラマティックな展開は見応えありです。 鍛え上げられた肉体から生み出される研ぎ澄まされた身体表現は、とにかくうっとり。そして国籍も言語も文化的背景も違うダンサーたちが、ひとつの舞台で同じ目的を持ってパフォーマンスする様子、そこにオーケストラの音楽や合唱が融合していく様は、震えるほど感動的です。まるで小説を映像化するように、ベートーヴェンが綴った譜面を視覚的、身体的に解釈したモーリス・ベジャール。天才の頭の中を覗いているような感覚にもなるこの圧巻のステージを大きなスクリーンで体感すれば、最高に幸せな気持ちで新年を迎えられるはずです! (文/松山梢) ●公開中 ©Fondation Maurice Bejart, 2015 ©Fondation Bejart Ballet Lausanne, 2015 

映画『ダンシング・ベートーヴェン』公式サイト