最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】真と偽の境界線を考える驚異の2冊

衝撃的な出合いというものが人生にはある。高山羽根子の小説との出合いは、いつもそう。何度でも、何度でも、知らなかったツボをついてくるのだからやめられない。最新作『如何様』は、画家・武田鉄平の装画もすごい。タイトルの漢字にまとわりつくように配された「イカサマ」の4文字もすごい。東京・世田谷の坂道、黒い蟻、白あん最中、緑の庭。夏の光に照らされて物語が始まる。戦争から帰ってきた平泉貫一という男にまつわる話が、本人不在のまま進んでいく。実の父母さえ息子だと気づかぬほどに様変わりして帰還した水彩画家。出征と前後して籍を入れた妻は、もとより彼の顔を知らない。あれは別人だ、本人だ、という証言が集まる。《『あれ』で変わらなかった人間が、日本にいるんですかねえ》と、戦争を語る女がいる。本物とは、偽物とはなんなのか? 真実が人を幸せにし、虚偽はそれを壊すのか? 読み進めるうち、真と偽は対立項ではなく、隣りあって、ときには重なりあってあるものなのかもしれない、と考えはじめてもう一度最初から読み返したくなる。

【イチ押しBOOK1】高山羽根子『如何様』

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平泉貫一が戦争から復員した。妻・タエと、貫一の父母が彼を出迎えたが、その姿は別人のように変わっていた。続く出奔、失踪、そして贋作の仕事。真と偽の意味を考えずにいられない表題作と、短編『ラピード・レチェ』を収める。(朝日新聞出版 ¥1300)

【イチ押しBOOK2】乗代雄介『本物の読書家』

乗代雄介が生み出す衝撃は、読み終えてから何年も続くような持続性を備えている。1月上旬に『最高の任務』が刊行されたばかりだが、前作『本物の読書家』の怪作っぷりもすごい。《川端康成からの手紙を後生大事に持っているらしい》という噂のある大叔父にお供して、茨城へ向かう「わたし」。電車に乗りあわせた謎の男や大叔父との、数時間のやりとり。読書家の言葉の応酬にはミステリーの香気さえ漂って、ここでもまた真と偽が交錯する。
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本を読むこと、読書家であること、誰が書いたものかを考えること。デビュー以来、企みと引用に満ちた美しい文章で、たびたび文学賞候補に挙げられる気鋭による2冊目の単行本。『未熟な同感者』との2編を収める。(講談社 ¥1600)

『遠の眠りの』『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』『私はカレン、日本に恋したフランス人』【オススメBOOKはこの3冊】

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『遠の眠りの』/谷崎由依
昭和の初め、福井に「少女歌劇団」があった。農家に生まれ、女工として働き、雑誌『青踏』によって婦人解放運動に出合う主人公。歌劇団で働く少女の目に映った遠い過去が、鮮やかに現代へと接続される長編小説。(集英社 ¥1800)
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『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』/パオロ・コニェッティほか〈編〉関口英子ほか
カバーを飾る水彩画が、文学という世界の果てしない広がりを予感させる。優しいタイトルに心が安らぐ。1940年代から80年代まで、生まれた年もイタリア語との関係もさまざまな13人の作家による15の物語。(国書刊行会 ¥2400)
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『私はカレン、日本に恋したフランス人』/じゃんぽ〜る西
日本を愛するフランス人ジャーナリストと、パリで漫画を描いていた日本人漫画家。相似形のふたりが出会い、結婚する。日本の文化に、風景に、伝統に向けられる目線が楽しい、23年間を描くエッセイ漫画。(祥伝社 ¥920)
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原文/鳥澤 光