大注目シンガーの制作の裏側に迫る

2004年に日本で歌手デビュー、2006年に韓国で凱旋デビューして以降、日韓のポップスとロックを融合させた曲で、リスナーの心を掴み続けているシンガーソングライター、YOUNHA(ユンナ)さん。韓国ドラマを彩る挿入歌も数多く手がけており、そこでユンナさんを知ったという人も多いのでは? 

今回、ファンミーティング開催のために来日していた彼女にインタビューを実施。韓国でのチャート逆走&ロングヒットが話題の曲『Event Horizon(事象の地平線)』の制作秘話や、近況をたっぷりお届けします。

シンガーソングライター
YOUNHA(ユンナ)

1988年4月29日生まれ。韓国屈指のシンガーソングライター。

『Event Horizon(事象の地平線)』の主人公は、理想とする大人像

YOUHNA(ユンナ)

ーーユンナさん、おかえりなさい。来日するのは何年ぶりですか? 

ユンナ:8年ぶりです。時間が経つのってすごく早いですね! 今日の午前中に日本に到着したので、まだ(日本を)満喫できていないのですが、全てのスケジュールを終えたら、友人のバンドのライブに行く予定です。

 

ーー昨年リリースしたリパッケージアルバム(既存のアルバムに新曲を数曲追加し、装い新たにリリースされたアルバム)の収録曲『Event Horizon(事象の地平線)』が、韓国の音楽チャート逆走で大ヒットし社会現象になりました。

ユンナ:私、ツイてますよね! なぜヒットしたのか分析してみると、楽曲やパフォーマンスの力だけではなく、タイミングの力も大きいと思います。パンデミック中に音楽やライブの楽しみ方、アーティストへの向き合い方を学んだオーディエンスが、ついにオフラインで音楽を感じられるとなった時にこの曲がリリースされた。たまたま音楽を味わう準備ができているところに乗ることができた。私はすごく運が良かったんだと思います。

 

ーーこの曲は、数多くのK-POPアーティストがカバーを披露していますよね。それらはチェックしていますか?

ユンナ:カバーは全部見ています。たくさんの方が「好きな先輩」と言ってくれたり、「いい曲で歌いたいので、インストをください」と連絡をしてきてくれて、すごく嬉しかったですね。あまりにもいいことばかり言ってくれて、「私、いつの間に大御所になっちゃったの?」と思ったり(笑)。

『Event Horizon(事象の地平線)』のMVはこちら

윤하(YOUNHA) - 사건의 지평선 M/V

ーーそもそも『Event Horizon(事象の地平線)』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

ユンナ:『END THEORY』というアルバムのリパッケージを準備していた時に作った曲です。普通リパッケージアルバムというのは、アルバムを作った時に入らなかった曲を収録するのですが、アルバムのプロモーション活動が終わった時に、「今の感覚だったら、いい曲が作れちゃうかも!」と思って。リリースまで1ヶ月程しか時間がない中で生まれた曲です。

メロディが先にできあがり、そこに歌詞をつけようとしたら行き詰まり……。締め切りも迫っているので、環境を変える必要性を感じて、済州島に行ったんです。そこでドライブをしていた時に歌詞が浮かんできて、『Event Horizon(事象の地平線)』は完成しました。同じくアルバムに収録されている『살별(c/2022YH)』は、済州島にある現代美術館の駐車場で書きました。なぜ駐車場かと言うと、行ったら休館日だったんです(笑)。開館日をチェックせずに行くなんてドジですよね。こんなハプニングもありましたが、やっぱり環境を変えて、自然豊かな場所に身を置くと、いいものが生まれるなと思いました。

 

ーー『Event Horizon(事象の地平線)』『살별(c/2022YH)』はもちろん、人気アニメ「BLEACH」の主題歌に起用された代表曲『ほうき星』など、ユンナさんの楽曲は、宇宙を連想させるもの多いですよね。

ユンナ:そう、そうなんです! アルバム『END THEORY』に宇宙に関連する曲が多いのは、ステイホームの影響が大きくて。その時期、仕事もストップしていたし、やることがなくて空を眺める趣味を始めたんです。そうしたら、“私を生かしてくれた曲のひとつが『ほうき星』だし、宇宙は元々好きだけれど、好きと言いながらそれまで詳しく知ろうとしてしていなかった”、ということに気づいて。

さらに、空を眺めていたら「時間って流れるものなの?」「私たちは、与えられた時間の中で死に向かっていくだけ?」など、人間の根源的問いが自分の中にどんどん湧き出てきたんです。それで、その問いを解くために、星を見に行ったり、宇宙について本を読んで勉強するようになって。だから、自然と宇宙に関連する曲が生まれました。

 

ーーでは、『Event Horizon(事象の地平線)』というキーワードも、宇宙について学んでいる過程で出合った言葉なんですね。

ユンナ:はい。私、人との関係に執着するタイプで、けっこうしつこい方なんですよ(笑)。でも、相手との関係というのは、自分の思い通りにならないことが多いですよね。努力しても進まない関係があるし、努力することが間違いな関係もある。「それなのに、私はなぜ目の前の関係に固執して、前に進むことができないんだろう?」とずっと自分のことが疑問だったんです。そんな時に、“事象の地平線”という言葉に出合って、「コレだ! 私の理想とする大人像は」とハッとしてこの曲を書きました。だからこの曲の主人公は、こんな大人になりたいという私の希望ですし、この曲を作ったことでその理想に近づけたように思います。すごく人間関係を築きやすくなったので!

YOUHNA(ユンナ)

コラボレーションは、新しい自分に出会えるチャンス

ーーBTSのRMさんを客演に迎えた作品をリリースしたり、年末の音楽祭で(G)I-DLEのメンバーとコラボステージを披露されたりしていますよね。そういったK-POPアイドルとのコラボレーションは、ユンナさんにとってどのような経験や財産になっていますか? 

ユンナ:コラボは、私の幅を広げていく作業ですね。私はソロアーティストなので、普段は人に合わせるというより人が合わせてくれる環境にいるんです。だけど、コラボは相手が表現したいことと、私が表現したいことを擦り合わせて、シナジーを生む作業なので、ひとりでは見つけられなかった新しい私に出会うことができるんです。

その新しい自分というのは、たとえば、男性とデュエットすると、キーを合わせていく作業が必要で。その過程で、新しい声の出し方や、音域を見つけることがあるんです。他には作詞方法なども。『Winter Flower Feat.RM』は、普段の自分は書かないような歌詞表現にチャレンジしました。いつもの私は、相手に話しかけるようなスタイルで書くことが多いのですが、RMさんと作業したこの曲は、モノローグ的表現が多くて。それ以降の私の曲作りに影響を与えたと思います。

ーーユンナさんといえば、日本で活動する韓国人アーティストの先駆け的存在のひとりです。日本での音楽活動は、ユンナさんの音楽制作にどのような影響を与えましたか。

ユンナ:日本で活動した記憶が、今の活動を支えてくれています。私にとっては外国である日本で生きていこうとがんばった10代の頃の経験が私の心を強くしてくれました。あと、韓国はバンド系の音楽が日本に比べると断然少ない。日本で活動したことで、他の韓国人アーティストより少し早く、バンドサウンドやみんなで音を出して曲を作る魅力を感じることができたんじゃないかなと思います。

 

ーー今でも日本の音楽は聴かれますか? お気に入りのJ-POPがあれば教えてください。

ユンナ:好きですね! 特に最近は、SNSで日本の楽曲でチャレンジ動画を撮ることが多いので。あいみょんの『君はロックを聴かない』は、曲名もキャッチーだし、同じ女性ソロアーティストなので興味を持っています。あと、Official髭男dismは、衝撃を受けました。あんなスケールでロックが書けて、しかも歌もピアノも抜群に上手い。藤井 風さんも! 作業室にある大きなスクリーンで『まつり』のライブ映像を観た時は面食らいました。両手を上げてゆらゆらさせるあのダンスは中毒になる。コラボしてみたいです!

 

ーーMORE読者におすすめのユンナさんの曲を教えてください。

ユンナ:最新アルバムに収録されている『Oort Cloud』。この曲は、1970年代に宇宙に打ち上げられた宇宙探査機「ボイジャー1号」目線で書いた曲。タイトルのOort Cloud(オールトの雲)は、太陽系の外側を取りまいていると考えられている天体群で、流れ星の故郷と言われている場所なんですが、ボイジャーが300年後くらいにそこを抜け出すらしいんです。抜け出すと地球との連絡が途絶えてしまうけれど、ボイジャーはオールトの雲を突破するしかないし、そこを抜け出したら完全な一人旅。あとは新しいギャラクシーに向かうだけだ、という曲。新しい挑戦をする人におすすめです。

『Oort Cloud』のライブ動画はこちら

윤하(YOUNHA) - '오르트구름' Live Clip

柔軟な心で明るい未来を描いていきたい

YOUHNA(ユンナ)

ーー最近、ハマっていることは?

ユンナ:レタス栽培。どんどん大きくなるレタスを見ると、「君もがんばっているなぁ〜」と元気をもらえます。去年収穫したレタスは小さかったけれど、今年は土を変えたので結構いいサイズになりそう。ちなみに、トマトとネギも育てています。

 

ーーストレス発散方法を教えてください。

ユンナ:ゲーム「ファイナルファンタジーXIV」をすること。去年から始めて、ストーリーが面白いし、キャラクターがカッコいいのでハマっています。

 

ーー今、大切にしている言葉は?

ユンナ:“マインドセット”です。物事は、見る角度によって感じ方が変化すると言いますよね。どうマインドセットするかによって、人生というキャンバスに描かれる絵が変化する。そこに描かれるものは、できれば前向きで、できれば明るいものであってほしい。だから、心の持ち方は大切にしたいです。

そういえば、今回日本に来る飛行機の窓から海を眺めていた時、こんなことを思ったんです。上空から海を見ると波って見えないですよね? でも、近づくにつれて波立っているのが分かる。それは、時間の差ではあるけれど、細部を見ようとする心があるかどうかでもあるなと。“波を感じようとする姿勢”を大事にしたいです。

 

ーーそれでは、最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

ユンナ:長い間、本当にお待たせしました。待っていてくださって感謝しています。正直、「日本でトップを取る! 大きいステージに立つ!」というような欲はなくて。小さなステージでいいので、これからみなさんに何度もお会いしたいと思っています。そして、5月には、新しいアルバムが発売されるので楽しみにしていてくださいね!

YOUNHA

1988年4月29日生まれ。中学生時代、日本のテレビドラマに興味を持ち、独学で日本語を覚え始めた。 ほどなくして学校のクラスメイトに日本のテレビで何を喋っているか通訳してあげられる程に。 ドラマへの興味だけでなく、日本の音楽にも興味を持ち始める。 放送部の先輩にすすめられて宇多田ヒカル、MISIAなどの音楽を聴きはじめて、さらに日本の音楽が好きになっていく。 同時にピアノを弾きながら歌うことの楽しさや喜びを味わい、憧れのアーティストのように人前で歌ってみたいと思うようになり、少しずつデビューすることを夢見始める。 夢を実現させるため、韓国内でオーディションを探し、エントリーするようになる。 あるオーディションで圧倒的な印象を残し合格。 韓国の事務所と契約を結ぶことになり、その後関係者を通し、ユンナの歌声が日本の現所属事務所社長に届く。 いつか日本でも歌ってみたい、という子供の頃からの夢をかなえるべく、 日本でのデビューに向けて韓国と日本を行き来しながらレコーディングを開始。 みるみるうちに日本語が上達し、周囲のスタッフを驚かせる。 デモテープがドラマプロデューサーの耳に留まり、 2004年9月シングル『ゆびきり』が、フジテレビ系月曜9時連続ドラマ「東京湾景~Destiny of Love~」挿入歌に抜擢。 同年10月『ゆびきり-日本語version-』でデビュー。 2005年6月1日シングル『ほうき星』(テレビ東京アニメ「BLEACH」エンディングテーマ・オリコン初登場15位)のヒットで一躍話題に。 翌月7月13日『もっとふたりで』、9/7『タッチ/夢の続き』(映画「タッチ」挿入歌・オリコン初登場14位)を立て続けにリリース。 爽やかでピュアでいながら芯の通った歌声、確かなテクニックに裏打ちされたピアノの演奏力はすでにおなじみ。 また歌だけに留まらずピアノやダンスから繰り出されるダイナミックな音楽センスも大きな魅力。] 2022年3月に韓国で発売された6枚目のリパッケージアルバム「END THEORY:Final Edition」のタイトル曲「Event Horizon」が秋から様々なフェスティバルステージに出演したのをきっかけにランキングを逆走。 音楽プログラムと各種音源チャートで1位を獲得した。 多数の自作曲製作はもちろん、楽曲クレジットに名を連ねてさらに進化した音楽的能力を発揮している。

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撮影/北浦敦子 取材・文/海渡理恵