12星座全体の運勢

「月を呑む」

10月1日は「仲秋の名月」です。旧暦8月15日の夜に見えるまあるい月のことを、昔から「月見る月はこの月の月」といって心待ちにされてきました。

厳密には正確に満月となるのは10月2日の早朝ですが、十五夜の翌日は「十六夜(いざよい)」、前日の月は「待宵(まつよい)」としていずれも大切にされ、その際、月に照らされていつもより際立って見える風景や、月を見ることでやはり美しく照り映える心の在り様のことを「月映え(つきばえ)」と言いました。

そして、そんな今回の満月のテーマは「有機的な全体性」。すなわち、できるかぎりエゴイズムに毒されず、偏った見方に陥らないような仕方で、内なる世界と外なる現実をひとつのビジョンの中に結びつけ、物事をクリアに見通していくこと。

ちなみに江戸時代の吉原では、寿命が延びるとして酒を注いだ杯に十五夜の月を映して飲んでいたのだとか。どうしても手がふるえてしまいますから、水面にまるい月を映すことは難しかったはずですが、綺麗なビジョンを見ようとすることの困難もそれとどこか相通じているように思います。ただ、透き通った光を飲み干すと、昔の人は何か説明のできない不思議な力が宿ったように感じたのかも知れません。

蟹座(かに座)

今期のかに座のキーワードは、「おのれをほどく」。

蟹座のイラスト
もはや「自己実現」という言葉は、就活を控えた大学生から定年を迎えた後のお年寄りまで、あらゆる年代で当たり前のように使われるようになってきました。

自分をさらに自分らしく。自分と社会やこの世界との結びつきをしっかりとした、ゆるぎないものにしていきたいという志向性は、確かに人生をある目的に向かって、意味のあるものにしていきたいと願う人にとっては最優先されるべきものと言えるかも知れません。

しかし一方で、自分というものから解き放たれたい、特定の目的や役割とかたく結びついてしまった自分を解除してしまいたい思うこともあるのではないでしょうか。

例えばパリに生まれた詩人ボードレールは、匿名の人間として群衆のなかをひとり、ぶらぶら歩きする愉しみを「群衆に沐浴(ゆあみ)する」と表現しました。

そうした群衆のなかにあって、自分という囲いを外し、通りかかる未知のものにみずからをそっくり与えてしまう快楽を、次のように述べてみせたのです。

群衆とたやすく結婚する者は、金庫のように閉ざされたエゴイストや、軟体動物のように殻に閉じこもった怠け者などには永久に与えられることのないような、熱烈な享楽を知るのである。彼は、めぐり合せが提示してくれる職業のすべて、歓びのすべて、悲惨のすべてを、自らのものとして受け入れる

確かに、あまり意味のあることばかりしていると、移ろいやすいもの、傷つきやすいもの、滅びやすいものが眼に入らなくなるという意味で、それしかできないというのは無能力の証なのかも知れません。

今期のかに座もまた、自分を閉じるのではなく開くことがテーマとなっているのだと言えます。そのためにも、たまには街を無目的にぶらぶら歩いて、その道すがら、未知のものの感触に自分を委ねてみるのもそう悪いことではないでしょう。


参考:ボードレール、阿部良雄訳『ボードレール全詩集〈2〉』(ちくま文庫)
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ