1980年──、いまから約40年前。女性の「性」の本音を語る「モア・リポート」が誕生し、2017年までに延べ1万2千人を超える女性たちの性を見つめてきました。

そして、恋愛やセックスがいっそう多様化している現在。20代、30代の体験談を取材した新「モア・リポート」をお届けします!

フルタイム勤務での子育てするリアル「非正規への切り替えを提案された」

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ーDATAー

藤木さん(仮名)32歳 / 職業:中学校教員

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藤木さん(仮名・32歳)は、2人目の子どもをなかなか授からず、不妊治療をはじめた。私立中学校の教員として働く彼女は、仕事と治療の両立で葛藤する。男性上司の理解が得にくい現場で、同僚のアドバイスにも衝撃を受けて……。

【まず前編を読む】中学校の教員、子育て中の30代女性。男性上司に言われた「子どもを産んでから存在感がない」

気づけば治療費は100万円超。先が見えない不妊治療

中学校の女性教員が子育てしながら働く難しの画像_1

――不妊治療をしていることを職場の方に話しましたか?

上司は男性で、話しづらかったのですが、話しやすい事務員の女性の方にこっそり話したことがあります。

だけど、その方からのアドバイスは「正規雇用から、非正規雇用に切り替えればいいんじゃない?」だったんです。(以下同、藤木さん)



――その方は、なぜそのようなアドバイスをしたのでしょうか?

その方自身、自分が妊娠した時に、正規雇用から非正規雇用に切り替えた経験があるからでした。不妊治療をした経験はなく、治療に対する理解はあまりない感じでしたね。とはいえ、悪気があって言ったわけではないと思います。


――そのような職場で、フルタイムで働きながら不妊治療をするのは大変だったのではないでしょうか?

そうですね。不妊治療の薬や注射の副作用で、仕事中に気持ち悪くなることが多々ありました。だけど、たくさん休んでいるから「気持ち悪い」「休みたい」とは言えず、耐えるしかありません。

そんな中、教育実習生の教育係のポジションを任されて、さらに忙しくなりました。ちょうど不妊治療をしていた20代後半から30代にかけては職場で中堅といわれるポジションになり、任される仕事が増えていました。今振り返ってみても、当時のことは仕事、子育て、治療に必死すぎて、あまり覚えていないんです。




――仕事をやめようと思ったことはありますか?

やめたいなと毎日思っていましたが、やめませんでした。だって不妊治療には多額のお金がかかるから。これから教育費だってかかりますし。子どもには好きなことをさせてあげたい、生活水準を落としたくない、そのためには共働きじゃないといけない、という気持ちもありました。




――仕事を変えることは考えませんでしたか?

転職も考えませんでした。新天地の不慣れな環境で子育てをしながら不妊治療することと、今を耐えながら治療するなら、現状のままの方がマシだと思ったからです。




――不妊治療はどのように進みましたか?

クリニックの先生からは生理不順以外で不妊の要因が不明なため、生理不順を治しつつ、タイミング法を提案されました。でも、そんなにたくさん仕事は休むことができないし、とにかくはやく妊娠したかったため、人工授精をしました。でも2回してダメで、体外受精を3回してダメでした。

気づけば治療をはじめて1年がたち、治療費は100万円を超えていました。仕事を休むことが増え、子どももいつできるかわからない。その状況に治療をやめようと思い、まずは夫に相談しました。

不妊治療を続けられたのは夫の対応が大人だったから

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――そもそも藤木さんのパートナーは不妊治療に対してどのようなスタンスでしたか?

(前編で)話したように「1人いるから焦らなくてもいいんじゃない」というスタンスではあったのですが、できるなら2人目がほしいという気持ちでした。

私の意思ではじめた治療ですが、「どうして私ばかりこんな思いをしないといけないんだろう」「夫だけ普通に仕事にいけていいな」と、そういう思いを夫にぶつけることもありました。

この時、夫に言い返されていたら不妊治療を即やめていたと思うのですが、夫は年上なこともあってか、「うんうんそうだよね」「ごめんね」とうまく私の言葉をかわしてくれたんです。




――喧嘩になることはなかったのですね。

そうですね。それがつらい治療の中での救いでした。また、クリニックの先生も私が夫にイライラしてしまうことに対して「男は役に立たんから」とか「産むのは結局女性なんだから」と、毒舌で(笑)。先生の言葉が私の気持ちを楽にしてくれた部分があります。

「仕事と治療を両立してよかった」そう思えるのは妊娠したから

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――パートナーに不妊治療について相談した結果、どうなりましたか?

体外受精は「次で最後にしよう」という話になりました。ただ、注射や薬は引き続き続けていくことに。治療をやめてどこかほっとした気持ちもありました。

しばらくして、治療のおかげで定期的に来ていた生理が来なくなり、また不順になったと絶望。このことがきっかけで、完全に不妊治療をやめようと思いました。でも、それは不順ではなく妊娠だったと後にわかったんです。




――自然妊娠だったということですか?

そうですね。結局は自然妊娠でした。私の場合、生理不順以外の不妊の原因がわからなかったんです。だけど今振り返ってみると日々のストレスが大きかったのかな、と思います。




――やはり仕事のストレスでしょうか?

仕事のストレスに加え、不妊治療しても結果が出ない時に治療費を第一子に使えていたらどれだけよかったかと自分を責めることもありました。仕事と治療ばかりで、目の前にいる子どもに向き合えていなかったんじゃないかと。だから治療をやめた時、ふっきれたような、開放された気持ちもあったんです。

それでも、妊娠がわかった時は、無理してでも仕事と治療を両立して本当によかったなと思いました。だけど、そう思えるのは妊娠したから。それに尽きます。

働くのは「お金のため」

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――その後、31歳で無事出産され、この4月から復職された?

はい。今は職場復職しています。




――育休や復帰にあたり、職場の理解はありましたか?

お話ししたような職場なので、育休中にも色々ありました。

4月まで育休取得することで了承をもらったのですが、育休中の昨年12月に上司に突然呼び出され「復職を3ヶ月早めて、来月から働いてくれないか」と相談を受けたことがあります。




――それはなぜですか?

私以外に産休に入る先生がいたらしく、人員が足りないという理由でした。また、復職する際も時短勤務をお願いしていたのですが、通常勤務にできないかという打診がありました。それを断ると、次は「子どもが小さい時は、非正規という働き方もあるよ」という話が出たんです。




――上司から働き方を変更することを提案されたのですね。

はい。上司は表向き「私のことを考えて……」と言っていましたが、全然そうは感じなかった。そもそも非正規になれば、育休を含む諸手当はもらえなくなります。この話を職場の女性にしたら「みんな言われてるから気にせんでいいよ~」と言われました。

それで私も、気にしないことに決めました。




――引き続き、正規雇用として働くことにしたのですね。

はい。1人目の育休の時も同じようなことを言われ、その時は上司にペコペコしたし、後ろめたい気持ちでいっぱいでしたが、今は強くなりましたね。理不尽なことを言われたら、聞いているふりをしながら、心の中では「うるせぇ!」って思えるようになりました(笑)

権利としてあるものは、ちゃんと主張しようと思います。そうしなければ、働きながら妊娠・出産・子育てなんてできませんから。




――不妊治療を経て、今何を感じますか?

子どもは産めるだけ産みたいと思うようになりました。今は30代だけど、40代になっても産みたい! そのためには子どもを育てていくためのお金が必要。だから、どれだけつらくても仕事は続けます。




――今、藤木さんが働いている理由はなんですか?

今私が働いているのは「お金のため」。それが全てです。

 

取材・文/毒島サチコ

ライター・インタビュアー
毒島サチコ

MORE世代の体験談を取材した「モア・リポート」担当のライター・インタビュアー。

現代を生きる女性のリアルな恋愛観やその背景にひそむ社会的な問題など、多角的な視点から“恋愛”を考察する。