アーティストたちにとっても激動だった、大戦間の20年に迫る

「両大戦間のモダニズム:1918-1939 煌めきと戸惑いの時代」

町田市立国際版画美術館にて、「両大戦間のモダニズム:1918-1939 煌めきと戸惑いの時代」展を2024年12月1日(日)まで開催します。本展では、ふたつの世界大戦の狭間にあたる約20年間に焦点を当て、モダニズムの時代を版画に表したアーティストたちの作品約230点を展示。社会の変革期につくられた作品は100年後を生きる私たちに何を問いかけてくるのでしょうか。

「両大戦間のモダニズム:1918-1939 煌めきと戸惑いの時代」展示構成

1.「両大戦間」に向かって:Before 1918

フェリックス・ヴァロットン《ラ・ペピニエールのポスター》1893年、リトグラフ、当館蔵

フェリックス・ヴァロットン《ラ・ペピニエールのポスター》1893年、リトグラフ、当館蔵

本展のプロローグとして、第1章では「両大戦間」の前史にあたる19世紀末から20世紀初頭に目を向け、この時代の社会を各々のまなざしで描写したアーティストの作品を見ていきます。

第一次世界大戦の勃発前夜、ヨーロッパはベル・エポック(美しい時代)と呼ばれる平和と繁栄の時代を迎えました。特にパリは芸術や文学、ファッションの中心地として栄え、街には多色刷りリトグラフのポスターや1900年頃に最盛期を迎えたアール・ヌーヴォー様式の優美な装飾が溢れていました。他方でフェリックス・ヴァロットンらが描いたように、貧富の差の拡大や列強諸国の軍事強化といった事象が、この華やかな時代の裏側に潜んでいました。

そして1914年に勃発した第一次世界大戦によって、ベル・エポックは終焉を迎えます。ヨーロッパ全土を大きく揺るがした戦争は、本展で後に紹介するアーティストらに大きな衝撃を与えることになるのです。

主な出品作家
フェリックス・ヴァロットン、アンドレ・エレ、テオフィル・アレクサンドル・スタンラン、ジョルジュ・ルオー

2. 煌めきと戸惑いの都市物語

シャルル・マルタン『スポーツと気晴らし』より、1923年刊、ポショワール、当館蔵

シャルル・マルタン『スポーツと気晴らし』より、1923年刊、ポショワール、当館蔵

ジョルジュ・バルビエ『ガゼット・デュ・ボン・トン』1924-25年第1号より、平版印刷、ポショワール、伊藤紀之氏コレクション

ジョルジュ・バルビエ『ガゼット・デュ・ボン・トン』1924-25年第1号より、平版印刷、ポショワール、伊藤紀之氏コレクション

竹久夢二『婦人グラフ』より、1924刊、平版印刷、木版、当館蔵

竹久夢二『婦人グラフ』より、1924刊、平版印刷、木版、当館蔵

第2章では、都市をテーマとする版画やファッション雑誌、絵本などの印刷物から、新しい社会に対する期待と不安が入り混じった両大戦間のフランス、アメリカ、日本、ドイツ、ロシアの様相を見ていきます。

第一次世界大戦後の好景気に沸いたフランスとアメリカは、「狂騒の時代」と呼ばれる繁栄期を再び迎えました。ファッションの発信地パリでは『ガゼット・デュ・ボン・トン』などの雑誌が次々と再刊され、直線や幾何学模様を特徴とするアール・デコのスタイルは海を越えて日本にも伝わっていきます。

一方、敗戦国ドイツでは1919年にワイマール(ヴァイマール)共和国が成立するも不安定な時代が続き、マックス・ベックマンら戦争を経験したアーティストたちは都市の喧騒を客観的に見つめました。1917年の革命を経て社会主義国家となったロシア(ソビエト連邦)では「ロシア・アヴァンギャルド」と呼ばれる芸術表現の革新運動が展開されるも、国家統制により1930年代初めに終焉を迎えることとなります。

主な出品作家
ジョルジュ・バルビエ、ジョルジュ・ルパップ、シャルル・マルタン、ルイス・ロゾヴィック、マックス・ベックマン、エル・リシツキー、竹久夢二、藤田嗣治

3. モダニズムの時代を刻む版画

ピエト・モンドリアン《色面によるコンポジション No.3》1957年(原画1927年)、スクリーンプリント、当館蔵

ピエト・モンドリアン《色面によるコンポジション No.3》1957年(原画1927年)、スクリーンプリント、当館蔵

ジャン=エミール・ラブルール《前線の小さな売り子たち》1917-21年(1921年以降の刷り)、エングレーヴィング、当館蔵

ジャン=エミール・ラブルール《前線の小さな売り子たち》1917-21年(1921年以降の刷り)、エングレーヴィング、当館蔵

長谷川潔《カーネの水車小屋》1929年、メゾチント、当館蔵

長谷川潔《カーネの水車小屋》1929年、メゾチント、当館蔵

第3章では、写真や映画が新しい表現として脚光を浴びた両大戦間に、旧来の表現媒体である版画を制作し続けたアーティストを、「抽象表現」「挿絵本文化」「シュルレアリスム」という3つのキーワードから紹介します。

両大戦間のヨーロッパでは、古い慣習を捨てて新時代に進むモダニズムと、戦争をもたらした文明と距離を置いて伝統に立ち返る「秩序への回帰」というふたつの潮流がせめぎ合っていました。伝統的な写実主義と決別した抽象表現はモダニズムの主な潮流のひとつで、時代を先駆ける前衛的な作品のイメージはしばしば版画を通して広まりました。

一方、挿絵本文化が花開いた同時代のパリでは、多くのアーティストが版画を制作し、エングレーヴィングなどの古典技法が注目を集めるようになります。さらに1924年に誕生したシュルレアリスムは、人間の理性中心主義を否定して、文学や絵画、写真、版画など幅広い領域で、非合理的な無意識下の世界に目を向けました。

主な出品作家
ピエト・モンドリアン、フランティシェク・クプジョカ、ソニア・ドローネー、ジャン=エミール・ラブルール、アンドレ・デュノワイエ・ド・スゴンザック、マックス・エルンスト、マン・レイ、サルバドール・ダリ、ジョアン・ミロ、長谷川潔

4. 「両大戦間」を超えて:After 1939

フェルナン・レジェ『サーカス』1950年刊、リトグラフ、当館蔵

フェルナン・レジェ『サーカス』1950年刊、リトグラフ、当館蔵

最終章では、両大戦間をテーマとする本展のエピローグとして、1939年の第二次世界大戦の勃発によるアーティストたちの変化や戦後の展開に焦点を当てます。

煌めきと戸惑いに満ちた両大戦間という時代は、1930年代のドイツとイタリアにおけるファシズム政権の台頭、そして1939年の第二次世界大戦勃発によって終焉を迎えました。戦火に包まれた戦時下のヨーロッパで、アーティストたちの活動が抑圧され、約700名のアーティストがアメリカに亡命したと言われています。

本展で紹介したアーティストたちは、その多くが青年期に第一次世界大戦を経験し、キャリアの円熟期や晩年に第二次世界大戦に直面しました。本展で最後に紹介するフェルナン・レジェの『サーカス』には、戦争の遠い記憶と自然の再生への願いが込められています。

主な出品作家
エミール・ツビンデン、ジャン・フォートリエ、スタンレー・ウィリアム・ヘイター、イヴ・タンギー、アンドレ・マッソン、ルイーズ・ネヴェルソン、フェルナン・レジェ

アンリ・マティス《寝椅子の上のオダリスク、赤いタイルの床》1929年、リトグラフ、当館蔵

アンリ・マティス《寝椅子の上のオダリスク、赤いタイルの床》1929年、リトグラフ、当館蔵

「両大戦間のモダニズム:1918-1939 煌めきと戸惑いの時代」開催概要

町田市立国際版画美術館

会期 2024年12月1日(日)まで
会場 町田市立国際版画美術館
住所 194-0013 東京都町田市原町田4-28-1
展示室 町田市立国際版画美術館 企画展示室1、2 ※巡回なし
時間
平日:10:00~17:00
土・日・祝日:10:00~17:30 ※入場は閉館30分前まで
休館日 月曜日 
※9月23日(月・祝)、10月14日(月・祝)、11月4日(月・振休)は開館、9月17日(火)、9月24日(火)、10月15日(火)、11月5日(火)は休館
観覧料
一般 800(600)円 大・高生 400(300)円 中学生以下は無料
※( )は20名以上の団体料金
※身体障がい者手帳、愛の手帳(療育手帳)または精神障がい者福祉手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は半額
※文化の日11月3日(日)は入場無料
※会期中の第4水曜日のシルバーデー(9月25日、10月23日、11月27日)は65歳以上の方の入場無料
※リピーター割引、ウェブクーポン割引ほか各種割引を実施(※詳細は当館Webサイトに掲載予定)
TEL 042-726-2771

詳しくは「町田市立国際版画美術館」の公式サイトをチェック!