日本全国「It girlの履歴書」- 岐阜県岐阜市

“木桶仕込み”という伝統的な手法でつくられる“たまり醤油”。その家業『山川醸造』を継ぐために地元へUターンした山川華奈子さん。全国の木桶醤油の蔵元とも連携しながら、“たまり醤油”のように濃く味わい深い毎日を送る彼女に迫ります。

たまり醤油の『山川醸造』4代目・山川華奈子さん

たまり醤油の『山川醸造』4代目・山川華奈子さんと父の晃生さん

⚫︎ History ⚫︎
1991
岐阜県岐阜市生まれ
父・晃生さんは『山川醸造』の3代目
2007
3代目が「アイスクリームにかける醤油」を考案
2014
名古屋市立大学経済学部卒業
東京の食品商社へ就職
北米産大豆の輸入事務を担当
2016
家族や自身の入院をきっかけに家業を継ぐことを決意
2018
岐阜市に戻り実家の『山川醸造』に就職
3代目のもとで“たまり醤油”づくりを学びつつECサイト運営やイベント企画などを担当
2024
地元・岐阜市での「蔵見学」や「鵜飼い観覧ツアー」をはじめ、全国の木桶職人との合同イベントなども企画・参加

#Trial&error

アイデアマンの父を支えつつ、ネットワークを広げ、仲間たちとたまり醤油の未来を模索している。

イベントで顧客に自社製品を説明する華奈子さん

イベントで顧客に自社製品を説明する華奈子さん。写真提供/山川華奈子さん

3人姉妹の次女。醸造所は幼い頃から慣れ親しんだ場所だ。

「子どもの頃は人前に出るのが苦手だったので、家から出たくないという意味で“私が継ぐ”と言っていたんです。それがたまたまテレビで放送され、周りからも“あなたが継ぐんでしょ”と。継がないという選択肢が私にあったかどうかはわかりませんが、父は私のために会社を続けたという話を聞いたことがあります」

「“木桶”仲間たちとの交流で、今できることを模索しています」

木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアムに参加した人が並ぶ

木桶醤油の蔵元28社による「木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム」の仲間と。写真提供/山川華奈子さん

父・晃生さんは「醤油ごま」、「アイスクリームにかける醤油」などのヒット商品を生み出した。

「私は父のようにいろんなアイデアを出すのが得意じゃないので、4代目として目指すのはそこじゃない。力仕事にも限界があります。それで自力でネットショップを開きました。当初は写真の撮り方もなっていなかったので、写真講座に通ったり。木桶の醸造家の仲間たちと交流を深めて、自分のできること模索したり。今も日々、試行錯誤を繰り返しています」

蔵見学に来た小学生が描いた絵

長年実施している蔵見学に来た小学生が描いた絵

フォークリフトに乗る華奈子さん

蔵でフォークリフトを自在に操る

#Future

華奈子さん

「音楽が好きなので、大学では学祭実行委員会に入り、企画を担当しました。今年は久しぶりに『FUJI ROCK FESTIVAL』に行って、とても楽しかったです」

フジロックに参加する華奈子さん

「FUJI ROCK FESTIVAL’24」での一枚。「学祭のライブ企画で[Alexandros]の前身となるバンドをお招きしました。その時に知りあった洋楽好きの友達と『フジロック』に行ってから大好きに」。写真提供/山川華奈子さん

休みの日には山登りも。

「この仕事は体力が必要なので仕事にもつながっています。醤油ケースって、すごく重たいんですよ」

趣味や特技を仕事につなげている彼女。仕事にかける思いを聞くと、意外な言葉が返ってきた。

「“苦しいと思ったことをする”のが私流です。私はつらさの中にある“おもしろいと感じる部分”を、とても好きになるんです。だから“ここが好き”と思うことを見つけていく。“このやり方なら楽しい、これならできるな”ということってあるじゃないですか」

登山する華奈子さん

写真提供/山川華奈子さん

登山中に写真を撮る華奈子さん

「地元の金華山だけでなく、飛騨高山や長野のほうへも登山に。カメラは写真の勉強も兼ねて。なによりも、自然と触れ合うことが好きなんです」。写真提供/山川華奈子さん

つらさの中のおもしろみに光を当て、ひたむきに進む原動力とは。

「Uターンして家業を継いだ頃、あるお客さんが『この醤油を50年使ってるのよ』と仰ってくれて。この方が使い続けられるようにしなくてはと思うと同時に、これからうちの醤油を知った方に50年後も使ってもらえるようにしなくちゃ、とも。それが原動力です」

“山川”のたまり醤油は長良川のたまもの

長良川

日本三大清流・長良川。『山川醸造』の製品は、長良川の伏流水でつくられている

「どこからでも金華山が見え、長良川が流れる。生まれ育った岐阜市の景色が大好きです」

豊かな自然に育まれたたまり醤油の味は、彼女の人生とともにいっそう深まりそうだ。

【前編】はこちら

Photo : Atsuko Kitaura Text : Kaoru Nakagawa ※MORE2024年秋号掲載