絵画から立体まで、幾何学アートを作り出したアーティストカップル

アーティゾン美術館は、「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」展を2025年3月1日(土)より6月1日(日)まで開催します。

左:《「ダダ・ヘッド」とゾフィー・トイバー》1920年、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト 撮影:ニック・アルフ 右:《「臍−単眼鏡」とジャン・アルプ》1926年頃、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト ⓒ VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4762

左:《「ダダ・ヘッド」とゾフィー・トイバー》1920年、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト 撮影:ニック・アルフ
右:《「臍−単眼鏡」とジャン・アルプ》1926年頃、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト
ⓒ VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4762

テキスタイル・デザイナーとしてキャリアを開始し、緻密な幾何学的形態による構成を、絵画や室内空間へと領域を横断しつつ追求したゾフィー・トイバー=アルプ(1889–1943)と、詩人としての顔をもちながら、偶然的に生まれる形態に基づき、コラージュやレリーフ、彫刻を制作したその夫、ジャン・アルプ(1886–1966)。

本展は、この20世紀前半を代表するアーティスト・カップルをめぐり、個々の創作活動を紹介するとともに、両者がそれぞれの制作に及ぼした影響やデュオでの協働制作の試みに目を向け、カップルというパートナーシップの上にいかなる創作の可能性を見出せるか、再考するものです。ドイツとフランスのアルプ財団をはじめとする国外のコレクションより、ゾフィー・トイバー=アルプの作品約50点、ジャン・アルプの作品約40点、そして、多様な様態からなる両者のコラボレーション作品約15点、計100点余りを出品予定です。

「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」展の見どころ

1.20世紀前半の前衛美術シーンを代表するアーティスト・カップルの展覧会

本展はふたりのアーティストの創作を紹介する二人展にあたりますが、夫婦の関係にあった二名を取り上げる点を特色としています。女性のアーティストの数が増加する19世紀後半以降、美術史には数多のアーティスト・カップルがみられます。その中でもゾフィーとジャンは、各々、ダダやシュルレアリスム、デ・ステイル、抽象といった前衛芸術の前線で活動しながら、デュオ、つまり両者のコラボレーションによる作品も残しています。

1943年にゾフィーが逝去して以降も、その残された作品はジャンの創作を刺激し続けるなど、ふたりの創作は絶えず密接な関係にありました。その意味で20世紀前半を代表するアーティスト・カップルといえるこの両者の関係は、単なる逸話にとどまるものではなく、カップルというパートナーシップにおける創作の可能性をはじめ、この時期の女性のアーティストの立場や、芸術ジャンルのヒエラルキーに関する考え方など、20世紀の美術を考察する上で普遍的なテーマを映し出しており、本展はそれらを射程に収めたものです。

ゾフィー・トイバー=アルプ、ジャン・アルプ《デュオ・デッサン》1939年、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト ⓒ VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4772

ゾフィー・トイバー=アルプ、ジャン・アルプ《デュオ・デッサン》1939年、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト ⓒ VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4772

ゾフィー・トイバー=アルプ《さまざまな要素のある垂直-水平の構成》  1919-38 年頃、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト

ゾフィー・トイバー=アルプ《さまざまな要素のある垂直-水平の構成》1919-38 年頃、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト

2.ゾフィー・トイバー=アルプの先駆的な創作活動を包括的に紹介

幾何学的抽象と色彩理論の研究を基盤に、テキスタイル、家具デザイン、建築設計、絵画など多方面で創作に取り組んだゾフィー・トイバー=アルプは、2021年にMoMA他で回顧展が開催されるなど、現在、再評価が進んでいます。周到かつ機知に富んだ構成を特徴とするその表現は、20世紀前半の抽象の文脈における高度な達成として評価されています。また、女性にも門戸が開かれていた応用芸術から出発し、後に前衛芸術の最前線で男性のアーティストと肩を並べるまでに至ったゾフィーの足跡は、女性のアーティストの新しいキャリアを示しており、歴史的な意義をそなえています。

本展は、夫ジャンに比して、日本では紹介の機会がきわめて限られてきたゾフィーの創作活動が包括的に示される貴重な機会となります。

ゾフィー・トイバー=アルプ《オーベット200(ストラスブールのオーベットのバーの天井デザイン》1927年、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト

ゾフィー・トイバー=アルプ《オーベット200(ストラスブールのオーベットのバーの天井デザイン》1927年、アルプ財団、ベルリン/ローラントシュヴェルト

3.“For Arp, Arp is Art”−ジャン・アルプのユニークな創作を再評価

有機的なフォルムの彫刻作品が特に知られるジャン・アルプですが、彫刻に取り組むようになるのは1930年代初めからで、その創作活動は絵画と詩を起点としています。ただし、カンヴァスに油彩で描く従来の絵画の形式にアルプは背を向け、平面と立体を統合させたレリーフの形式を創出するとともに、表現においては偶然的に見出されるイメージやコラージュに関心を向けるなど、規範や束縛から自由な創作を展開していきます。

造形芸術の傍らで、詩という言語芸術を常に並行させるアプローチもまた、その芸術を独自のものにしています。「アルプその人がアート」と評したマルセル・デュシャンの言葉は、さまざまな前衛の動向の間を自在に行き来したアルプのユニークな立ち位置を端的に物語るものですが、本展では20世紀美術におけるその重要性と今日に通じる意義を再考します。

ジャン・アルプ《花の頭部をもつトルソ》1924年、アルプ財団、クラマール ⓒ VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4772

ジャン・アルプ《花の頭部をもつトルソ》1924年、アルプ財団、クラマール ⓒ VG BILD-KUNST, Bonn & JASPAR, Tokyo, 2024 C4772

ジャン・アルプ《貝殻-帽子》1965年、アルプ美術館バーンホフ・ローランズエック Photo: Mick Vincenz

ジャン・アルプ《貝殻-帽子》1965年、アルプ美術館バーンホフ・ローランズエック Photo: Mick Vincenz

「ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ」展 開催概要

アーティゾン美術館

会場 アーティゾン美術館 6階展示室
住所 104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
時間 10:00 ー 18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日(5月5日は開館)、5月7日
観覧料 日時指定予約制(2025年2月12日[水]よりウェブ予約開始)
ウェブ予約チケット1,800円、窓口販売チケット2,000円、学生無料(要ウェブ予約)
*予約枠に空きがあれば、美術館窓口でもチケットを購入できます。
*中学生以下はウェブ予約不要です。
*この料金で同時開催の展覧会を全て見ることができます。
*同時開催「硲伊之助展」(5階展示室)、石橋財団コレクション選 コレクション・ハイライト(4階展示室)

アーティゾン美術館 Artizon Museum, Tokyo