草間彌生の故郷より、約330点の版画作品が京都に集まります!

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世界的前衛芸術家・草間彌生(1929~)の版画の世界をご紹介する展覧会です。草間彌生は1993年第45回ヴェネチア・ビエンナーレにおいて、日本を代表する作家として世界の舞台へと立ちますが、その前後で積極的に版画制作に取り組んだことも、現在の評価につながる大きな原動力となりました。

草間彌生は1979年に版画作品を初めて発表します。そこには米国から帰国後の死や苦悩をテーマにした作品とは対照的に、華やかなモチーフが色彩豊かに表現されています。それまでの抽象的な表現に加え、南瓜、ドレス、葡萄、花や蝶など日常的なモチーフが網目や水玉で構成され、明瞭な色彩をまといます。網目や水玉の増殖が創作活動の根幹にあった草間と、複製芸術である版画は必然的に出合ったと言っても過言ではないでしょう。

近年は、富士山を主題に浮世絵の木版画の技法を用いた連作や、モノクロームの大型シルクスクリーン作品「愛はとこしえ」シリーズなど、特徴的な作品を発表しています。本展覧会では、世界最大級の草間コレクションを誇る草間彌生の故郷・長野県松本市にある松本市美術館が所蔵する版画作品に作家蔵の作品を加えた約330点で草間彌生の版画芸術の魅力と軌跡を展観します。


第1章:わたしのお気に入り
1929年、草間彌生は長野県松本市で種苗業を営む旧家に生まれます。草間は花園に囲まれた少女期を過ごし、スケッチをするのが日課となっていました。その類まれな観察眼とデッサン力でいつしか世界を舞台に闘うことを決意します。

1957年、28歳で単身渡米。網目、水玉といった独自のイメージを確立し、約16年間ニューヨークを中心に創作活動を行います。しかし、体調や心の不調を感じ、1973年に帰国。この時期の作品には、苦しい胸のうちを反映するように、「死」を想起させるものが多く存在します。版画作品が登場したのもその頃からです。

版画作品には、死や苦悩を前面に押し出した作品とは対極にあるような華やかなモチーフが色彩ゆたかに表現され、生命力に満ちています。

《靴をはいて野にゆこう》 Going to the Field with Shoes On 1979年(後期展示)

《靴をはいて野にゆこう》1979年 ©YAYOI KUSAMA【後期展示】

第2章:輝きの世界
草間は渡米後、1959年に発表した網目でキャンバスを覆いつくす絵画「無限の網(ネット・ペインティング)」シリーズによって、画家として鮮烈なデビューを飾ります。そして、1965年頃からは、電飾と鏡を用いた立体作品の制作を始めました。「ミラールーム」に代表される光の彫刻作品です。合わせ鏡によって明滅しながらどこまでも増殖する光(水玉)は、草間の永遠なるイメージを代弁しているようです。

その輝きの世界は版画作品にも見ることができます。「無限の網」は、心の中のイメージと視覚的、体感的な経験の堆積を整理し、極々シンプルなかたちへ集約したものと言えます。故郷・松本のせせらぎ、渡米時に飛行機の窓から見た太平洋の揺らめきもその要素になっています。版画作品のラメの粒子による瞬きはそれらの記憶と通底しているのかもしれません。

《帽子(I)》 Hat (I) 2000年(後期展示)

《帽子(I)》2000年 ©YAYOI KUSAMA【後期展示】

第3章:愛すべき南瓜たち
草間彌生は植物に囲まれて育ちます。家の周りに広がる畑に出かけてはスケッチをする少女時代を過ごします。特にお気に入りは南瓜。その太っ腹で愛らしい姿に惹かれ、幾度も幾度も描いてきました。時を経て、心の葛藤を自己分析によって昇華させた水玉や網目が、草間の幼少期の記憶にあった植物たちと結びつきます。南瓜など身近なモチーフが水玉を纏(まと)うことで鑑賞者は草間彌生の表現に寄り添いやすくなったのかもしれません。鑑賞者と草間の心をつないだ南瓜は、今なお草間芸術の代表的なイメージとして君臨し続けています。

《南瓜》 Pumpkin 1982年(前期展示)

《南瓜》1982年 ©YAYOI KUSAMA【前期展示】

第4章:境界なきイメージ
草間は、キャンバスや彫刻作品、さらには空間全体を水玉や網目など同じパターンで覆いつくすことで、自身の中から浮かび上がるイメージは無限であることを高らかに宣言してきました。幼少期から共存を強いられた得体の知れない内的イメージを、草間は芸術によって自らの個性に昇華させることに成功します。それは葛藤と分析を繰り返し、永い闘いの末に手に入れた成果でもありました。常同反復によるイメージの増殖が創作活動の根幹にあった草間と、複製芸術である版画の出合いは必然だったのかもしれません。それまでの画面上、または同一空間でのイメージの増殖であったものが、版画作品の登場により、草間自身の手を離れた増殖を可能としたと言えるでしょう。

《波(1)》 Waves (1) 1998年(後期展示)

《波(1)》1998年 ©YAYOI KUSAMA【後期展示】

第5章:単色のメッセージ
シルクスクリーン、リトグラフは草間彌生の原画をもとに刷師が版を作成していますが、本章で紹介するエッチングの作品では、草間自身が銅板に線を描いているため、より直接的なイメージの再現ができていると言えるかもしれません。指先のわずかな振幅や強弱さえも版に刻まれ、それをあえて補正せずに刷り上げられています。小さな銅板にギリギリとねじ込んだ草間のイメージは、色彩のない単色の表現によって、より鮮明に浮かび上がります。

振り返れば、草間芸術の大きな転機にはいつもモノクロームの作品が誕生してきました。新たな表現領域に踏み込むにあたり、まず形状を徹底的に突き詰め、湧き上がって来るイメージを完全にその手中に捉えた後、色彩が溢れ出してきます。土台としてのフォルムが揺るがないからこそ、草間の色彩は天高く舞い上がることができるのでしょう。

《無限》 Infinity 1953-1984年(前期展示)

《無限》1953年-1984年 ©YAYOI KUSAMA【前期展示】

第6章:愛はとこしえ
「愛はとこしえ」は2004年から約4年をかけて制作されたシリーズで、黒色のマーカーペンで100号のキャンバスに描いた50点を原画としたシルクスクリーン作品です。顔や目、植物など具体的なモチーフが前面に押し出され、草間芸術の深遠性を知らしめます。帰国後の版画作品によって、つなぎ留められた記憶は、「愛はとこしえ」によって表出しました。それは、かつて幼少期を過ごした故郷・松本の花園で想像した数多のイメージで、脈々と草間の中に息づいていた大切な記憶であったのかもしれません。

本シリーズは、その後のアクリル画「わが永遠の魂」シリーズへと繋がり、最新シリーズ「毎日愛について祈っている」へ発展を続ける近年の躍進の起点となった作品でもあります。

《朝のかがやき (TWHIOW)》 Morning Splendor (TWHIOW) 2007年(前期展示)

《朝のかがやき (TWHIOW) 》2007年 ©YAYOI KUSAMA【前期展示】

展覧会ではほか、草間彌生本人の肉声を特別収録した音声ガイドや、松本市美術館の美術担当係長・渋田見氏による記念講演会、展覧会オリジナルグッズなどのコンテンツも。チケットも下記のほか、絹を素材にした京友禅職人による手染めのスマホ拭き「おふきmini」がついたお得な「グッズ付チケット」(当日一般3200円、前売3000円)もおすすめです。ぜひみなさん足を運んでみてくださいね。

「松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―」概要

会 場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
会 期:2025年4月25日(金)~9月7日(日)
前期:4月25日(金)~6月29日(日) / 後期:7月1日(火)~9月7日(日))
※本展は、前期・後期で全点を入れ替えます。
開場時間:10:00~18:00(最終入場は17:30まで)
休 館 日 :月曜日(ただし4/28、5/5、7/21、8/11は開館)
入場料金:
<当日券>
一般2200円、大学・高校生1400円、中・小学生600円、ペアチケット4000円
<前売・団体券>
一般2000円、大学・高校生1200円、中・小学生500円、ペアチケット3800円
※前売販売期間:2025年2月28日(金)10:00~4月24日(木)23:59
※未就学児無料(要保護者同伴)
※団体料金は20名以上
※障がい者手帳等ご提示の方はご本人及び介護者1名無料
(障がい者手帳等確認できるものをご持参ください。)
※ペアチケットは、一般入場券2枚のお得なセット券です。2名で来場ならびに1名で2回来場の場合でも利用できます。ペアチケットは美術館チケットカウンター、一部プレイガイドでは販売いたしません。

販売場所:
美術館公式オンラインチケット、展覧会オンラインチケット、アソビュー!、ローソンチケット(Lコード:51513)、チケットぴあ(Pコード:687-155)、ABCぴあ、e+(イープラス)、CNプレイガイド、セブンチケット(セブンコード:108-979)、ARTPASS、京都新聞文化センター ほか

みどころ|草間彌生 版画の世界 -反復と増殖- 公式サイト