認知症になって初めて愛を獲得した、キャリの画像_1

監督自らが認知症の母親にカメラを向け、最期の時間を切り取ったドイツのドキュメンタリー映画をご紹介。まだ老後がピンときていない世代にとっても、親や夫が病気になってしまったときのことを考える、いいきっかけになるはずです。ただし、“介護”だけがこの映画の主題ではなく、パートナーの愛し方や理想の結婚生活について思いを巡らすことができる点が最大の魅力。消えゆく母の記憶の中には、夫婦の驚くべきドラマが隠されていました。 母のグレーテルはテレビ番組の司会者となったのち、政治活動に参加し、かつては警察にマークされていたこともある社会活動家。白髪のかわいいおばあちゃんが、絶世の美女だったことが過去の映像で明らかになります。そして父マルテは元大学の教授。監督いわく、知識人カップルだった彼らはいつも議論ばかりでロマンティックな雰囲気はほとんどなく、両親が手をつないだところも見たことがなかったそう。その証拠に、ふたりは結婚後もお互いの浮気を容認する自由恋愛を実践していたそうなんです! ただし、そんなドライな個人主義カップルにも、妻が認知症を発症したことをきっかけに大きな変化が。夫に寄り添ったり、手をにぎったり、片時も離れようとしなかったり、「愛している」と口に出したりするなど、グレーテルがこれまでにないストレートな愛情表現をするようになるのです。 実は彼女の過去の日記には、表向きは自由恋愛を認めながらも、心の中では当たり前のように夫の愛人に嫉妬し、苦しんでいた過去が記されていました。働く女性なら誰もがきっと、自立した女性としてグレーテルが必死に守ろうとしていたプライドや理性に、痛いほど共感できるはず。そして、病によって全ての抑圧から解放され、心の赴くままに夫に愛を注ぐ無邪気な姿が、ギュッと抱きしめたくなるほど愛おしく思えるはず。お互いに素直に愛情を示すこと、触れ合うこと、寄り添うことがいかに大切かを教えてくれる温かな作品。いくつになっても、どんな状況におかれても、人生を取り戻すことができるという希望を与えてくれます。 (文/松山梢) ●4/15〜全国順次ロードショー © Lichtblick Media GmbH

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