天才トランぺッターを殺した妻に直撃インタビュー!? ジャズ史上最悪の悲劇に迫った映画『私が殺したリー・モーガン』

リー・モーガンとは、今から45年前に亡くなった実在のトランペット奏者。18歳で名門ブルーノート・レコードからデビューするなど、類い稀な才能でスターダムを駆け上った天才です。1972年2月19日、NYイースト・ヴィレッジのジャズクラブ“スラッグス”でひと回り年上の内縁の妻・ヘレンに銃撃され、33歳の若さで亡くなりました。ただし、いくら天才だったとはいえジャズ・ファンでなければ名前を聞いてもピンとこないはず。それでもここで紹介する理由は、ジャズに疎くても十分に楽しめる、ドキュメンタリーでありながらミステリーやラブストーリーを見ているような感覚になる傑作だからです。

映画は友人や関係者たちのインタビューを中心に事件の真相に迫っていく内容なのですが、殺した張本人であるヘレンのインタビューが含まれていることが最大のポイント。しかも収録されたのはヘレンが亡くなる1か月前の1996年2月。インタビューは、晩年にヘレンが通っていた学校の講師が個人的な興味から行ったものだというから驚きです。古びたカセットテープから流れてくる、すっかりおばあさんになったヘレンの声を聞いているうちに、“夫を殺したひどい女”という強烈な印象が少しずつ変化していきます。

未だにヘレンを恨むミュージシャンもいるのですが、多くの仲間から語られるのは、リーとヘレンがいかに愛し合っていたカップルだったかということ。そして、一時期ドラッグに溺れたリーをどん底から救い、恋人として、マネージャーとして再度ブレイクさせたヘレンの偉大な功績。料理上手で世話好きだった彼女の素顔が明かされるほど、ジャズ史に残る事件の当事者としてではなく、ひとりの男性を本気で愛した人物として、共感せずにはいられなくなります。殺してしまったことは絶対に許されないけれど、もしも友人だったら「気持ち、わかるよ!」と優しく肩を抱いてあげたかった。そんな気持ちになる、せつない愛の実話です。

(文/松山梢)

●12/16〜アップリンク渋谷ほか全国ロードショー

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