“運命の女”を追い求める男子の妄想が炸裂の画像_1

つい声に出してつぶやきたくなってしまう独特のタイトルが目を引くこの映画。ミュージシャンの話ではありません。主人公は工業高校に通うふたりの男子高校生、サイモンとタダカタシ。卒業後に大学進学を予定している控えめでマジメなサイモンは、実家の工場を継ぐ親友のタカシに秘かに思いを寄せています。ところがそんなほのかなサイモンの恋心に気づくことのない鈍感なタカシは、高校最後の夏休みに“運命の女”を探しに旅に出ることに。己の道を突き進む無謀なタカシに振り回されながらも、サイモンはその旅についていくことを決意します。 男子高校生たちの暴走する青春を描いた物語は多くあるけれど、内容のぶっ飛び具合はこの作品もなかなかのもの。だって、そもそもタカシが“運命の女”だと思って会いに行くのは、公衆トイレの壁に電話番号が書かれていた女性。何が何でも童貞を捨てようとする男子の底知れぬエネルギーに圧倒されます。さらに驚くのは、ふたりのドタバタ珍道中が、あるできごとをきっかけに想像を遥かに超える宇宙規模の壮大な物語に発展していくこと。実写に突如差し込まれるアニメーションやジオラマ、人形を使った味のある演出によって、低予算ながら見事にその世界観を具現化しています。 もちろん青春時代の女子だって、男子に負けず劣らず妄想は肥大化するもの。ただし、人気少女漫画で描かれている設定を見ても、イケメンふたりから告白されたり、先生と禁じられた恋に落ちたり、同級生と突然同居を強いられたり……などなど、現実に起こりえる範囲の中での妄想が多いのに対し、男子の妄想は軽々と地球を飛び越え、宇宙へと広がっていきます。その広大なイマジネーションの海の前に、女子はひれ伏すか呆れるしかありません。 ふざけた映画のように思われるかもしれませんが、根底にずっと流れているのは、親友への叶わぬ恋心を抱えるサイモンの悲しみ。そのピュアでもどかしい思いと、刻々と迫りくる青春時代のタイムリミットが相まって、観終わったあとにはせつなさと愛おしさが押し寄せてくるはず。第28回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでフォトジェニック賞を受賞した新人の阪本一樹が抜群の透明感で演じるサイモンと、今年でデビュー20周年(!)を迎えた須賀健太が演じる憎めないタダタカシの凸凹コンビもチャーミング。バカだけど愛おしい、男子の青春をご覧あれ。 (文/松山梢) ●3/24〜シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開 ©2017PFFパートナーズ(ぴあ ホリプロ 日活)

映画『サイモン&タダタカシ』公式サイト