安藤サクラの圧倒的な母性に抱きしめられるの画像_1
5月に行われたカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した、是枝裕和監督の最新作。題名通り、万引きをして生活をする一家のお話です。治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)、祖母の初枝(樹木希林)は、オンボロの平屋で暮らす5人家族。働き盛りの大人が3人もいるのに、家の持ち主である初枝の年金をあてにし、足りない生活品を子供に万引きをさせる日常はどう見ても異様。狭く限られた世界から飛び出す勇気も思考も持ち合わせていない、まさに「井の中の蛙」です。

清潔さとかけ離れた生活ぶりも注目。樹木希林が髪を伸ばし、入れ歯を外して演じた初枝の不気味さは、家族のいびつさを象徴しているよう。さらに、うだるような夏の暑さの中でそうめんとネギをぶちまけながら繰り広げる治と信代のラブシーンも、何とも言えない滑稽さが漂います。ただし、不潔で不気味で滑稽な家族の生々しい暮らしぶりを見れば見るほど、不思議と立ち上がってくるのは根底にある美しさ。「井の中の蛙大海を知らず」のあとに「されど空の深さを知る」と続くことわざのように、高層ビルに囲まれた小さな庭でぎゅっと身を寄せ合い、キラキラした瞳で見えないはずの花火を見上げる彼らには、お互いの痛みに寄り添い、甘えあい、いたわりあう紛れもない愛が存在しているのです。

特に親から虐待されていた小さな女の子、りん(佐々木みゆ)に「好きだから叩くのはウソ。好きだったらこうするの」とギュッと抱きしめる、安藤サクラ演じる信代の存在感は圧倒的。家族全員を包み込む大らかさと守り抜く強さ、どんな状況も乗り越える覚悟と強い母性は、女性が持ち合わせている魅力のすべてを詰め込んだよう。現実には想像を絶する悲しいニュースが溢れているけれど、やっぱり人間は優しくて美しい。そう信じたくなる作品です。ちなみに少ない出演時間ながら、柄本明や池松壮亮、池脇千鶴や高良健吾ら脇を固めるキャストの魅力的な演技にも注目を。

(文/松山梢)

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