女の業とプライドの戦いに背筋が凍る! 大の画像_1
“婚活”は、もはや独身のモア世代のものだけではありません。今回紹介する映画『後妻業の女』は、シニア世代の婚活事情がテーマ。そもそも、なぜ今シニア世代の婚活が盛り上がっているかと言うと、年金制度改革や長寿化などにより熟年離婚が劇的に増加し、2010年時点で65歳以上の一人暮らしは約600万人。男性の5人に1人、女性は2人に1人が未婚、もしくは離婚や死別によってパートナーを失った独身者なのだそう。ひとりぼっちで暮らす寂しさや経済的・健康上の不安は、アラサーとはくらべものになりません。そのため、還暦を過ぎての婚活も珍しいことではないのです。 ただし興味深いのは、男女が婚活で求める条件の差。男性は若い頃とさほど変わらず、若くて可愛いなど、いわゆる“色”を求め、女性は一生住める家と経済力、つまり“金”を求める傾向にあるのだそう。見た目の良さなど腹の足しにもならない無駄な願望は削ぎ落とされ、純粋な欲望だけが残る。高齢女性が行き着いた究極の潔さに圧倒されてしまいます。大竹しのぶさん演じるヒロインの小夜子も、もちろん金目当て。豊川悦司さん演じる結婚相談所所長と共謀して孤独な老人から金をせびり取る結婚詐欺を働いているのですが、婚活パーティでは「好きなことは読書と夜空を見上げること……。私、尽くすタイプやと思います」と上目遣いでアピールし、その控えめな淑女っぷりで次々と老人たちをイチコロにしていきます。 結婚詐欺はもちろんいけないことですが、高齢男性に若さと可愛げで元気を与える小夜子と、お金を墓場まで持って行くことができない資産家男性との利害は意外にも一致。相手の求める女性像を軽やかに演じて自分の欲求を満たす、合理的かつ華麗なテクニックはさすがのひと言です。ちなみにこの映画で一番怖いのは、小夜子の悪女ぶりではなく女同士のバトル。結婚した男性が脳梗塞で倒れた際、小夜子はその娘たちに「自分が全財産を相続する」と言い渡して猛反発を食らいます。尾野真千子さん演じる娘と小夜子が焼き肉屋で生肉を投げつけて取っ組み合いをする壮絶なシーンは、財産の問題以上に、「見ず知らずの他人に負けたくない!」というプライドが透けて見え、背筋が凍るほど。いくつになっても、どんな状況でも、やっぱり女の敵は女……!? 女の業と人間の滑稽さを突きつけられる、ちょっと怖いけど笑えるコメディです。 (文/松山梢) ●8月27日(土)より全国ロードショー ©2016「後妻業の女」製作委員会
映画『後妻業の女』公式サイト