父との関係に悩むアラサー女子のリアル! の画像_1
単純に年齢を重ねたり、親元を離れて暮らし始めたりすると、いつの間にか親と立場が逆転していることに気づくことがあります。逆転とまではいかなくても、対等な立場の存在として頼られたり、守ってあげたり、ときに怒ったり。親の庇護のもとに暮らしていた子ども時代とは違う関係性が生まれると、「大人になったな」としみじみ思うものです。この作品は、そこからもうちょっと踏み込んだ娘と父親のドラマ。中澤日菜子による同名小説を、『百万円と苦虫女』や『ふがいない僕は空を見た』、『ロマンス』などを手がけてきたタナダユキ監督が映画化しました。 主人公は上野樹里演じる34歳の彩。20歳年上の恋人、伊藤さん(リリー・フランキー)と同棲する部屋にある日突然、兄夫婦の家を追い出された74歳のお父さん(藤竜也)が転がり込み、奇妙な共同生活を始める様子が描かれます。長年教師をしてきたお父さんはとにかく口うるさくてガンコ。料理の味や食べ方、お酒の飲み方や仕事に至るまで常に小言を浴びせるのです。一方で彩は、離れて暮らしていた父が普段どんな生活を送っているか疑問を抱き始めます。同じアパートに暮らし、ケンカをし、ときに尾行してまで見えてきたのは、妻に先立たれた“夫”、教え子に慕われる“元教師”、仕事を引退し行き場をなくした“老人”などなど、家で小言を言う“父親”という一面だけではない、社会の中で様々な顔を持つ多面的な父の姿。 そこには知りたくなかったある秘密も含まれていて、彩の胸をチクッと刺す切ない出来事も起こるのですが、子どもが親に言えないことがあるように、親にだって子どもに言えないこともある。何に情熱を傾け、どんなことに傷つき、どんな弱さを抱えて生きてきたのか。いちばん身近だからこそ知らなかった親の人生をすべてひっくるめて受け入れる彩の成長のドラマは、気分としての大人ではなく、本当の意味で大人になろうと決意する勇気ある一歩に見えました。でもそのためには、親子の間に立つ“赤の他人”の存在も必要不可欠。それが優しくて懐が大きくて愛情深い伊藤さんのような人で、なおかつ上野樹里の隣にいても違和感のないチャーミングなリリー・フランキーだったら、「そりゃあ心強いだろうよ……」と妄想をしてしまう、キャストも絶妙な作品です。 (文/松山梢) ●10/8〜新宿バルト9ほか全国ロードショー ©中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会
映画『お父さんと伊藤さん』公式サイト