濃密すぎる99分! 世界が注目する天才監督・グザヴィエ・ドランが描く不完全な家族の物語『たかが世界の終わり』

冒頭から「家は救いの港じゃない」と切々と歌い上げるシーンからはじまる本作。まさに、その言葉がすべてを表している、グザヴィエ・ドラン監督の最新作です。主人公は、自分の死を家族に告げるために12年ぶりに帰省した32歳の作家ルイ。前菜、メイン、オードブル、デザートを食べながら家族と過ごすたった3時間の滞在の中で、何度も事実を告白しようと試みながらも、コミュニケーションが取れずに葛藤する物語です。息子の久しぶりの帰省に喜びながらも、長年の不在を責め、重要なことは見て見ぬ振りをする母。弟に対する激しい劣等感に苛まれ、終始ケンカ腰の兄。ルイをただひたすら尊敬して愛する奔放な妹。多くを理解しながらも、家族の問題には巻き込まれたくない兄嫁……。それぞれの主張がぶつかりあいながら、空しく過ぎていく時間を切り取っています。

果たしてルイは自分の思いを伝えることができるのか。それとも、命が終わってしまう前に、家族との愛が終わってしまうのか。距離が近すぎるからこそお互いに甘え、憎み、語り合わない、不器用で複雑で残酷な家族の姿がリアルです。欠点ばかりの不完全な登場人物たちの姿は、家族と対峙するときの自分の不完全さとも重なり合い、きっと誰もが胸をえぐられるはずです。ちなみに本作は、舞台の戯曲を映画化したもの。ドラン自身、約10年前に読んだときには興味をそそられなかったものの、「大人になってやっと登場人物の欠点を理解することができるようになった」と語っています。

『わたしはロランス』や『Mommy/マミー』など、新しい自由な映像表現で驚かせてくれた彼が、本作では奇をてらった演出を極力排しながらも、随所に“らしい”映像美と緻密な構成を盛り込み、円熟味のある作品に仕上げたのも見どころ。これまでのドラン作品とはひと味違う、新たなステージに足を踏み入れた傑作です。多くを語らない主人公と同様、それぞれの家族が抱えている本心、唯一血のつながらない兄嫁の存在が示すもの、そして『たかが世界の終わり』というタイトルの意味ですら、明確な答えを提示していません。自分の家庭環境やこれまでの生き方によって万華鏡のように様々な捉え方ができるので、見終わったあとは映画の余白を埋めるように、親しい人たちと語り合ってみるとおもしろいはずです。

(文/松山梢)

●2/11〜新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

©Shayne Laverdiere, Sons of Manual

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