天才画家とダメ男の愛おしすぎるロードムービー『僕とカミンスキーの旅』

1920年代にポーランド人の母親と共にパリに渡り、マティスの弟子でピカソにも一目置かれた盲目の天才画家、マヌエル・カミンスキーを知っていますか? 本物のアーティストたちの映像を絡めた彼の半生をまとめたシーンを見れば、きっと実在の人物だと信じてしまう人もいるはず。ただしカミンスキーは映画の中の架空のキャラクター。こんなホラ話をあたかも実話のように堂々と描いてしまうあたり、この作品の挑発的で型破りなおもしろさがビシビシ伝わってきます。主人公はダニエル・ブリュール演じる31歳の美術評論家ゼバスティアン。表舞台から姿を眩まし隠居生活を送るカミンスキーに突撃取材を敢行しようと試みます。

伝記を出版して儲けようとしか考えていないため、本当に目が見えないのか暴こうとしたり、取材中にカミンスキーが死んだらネタになると考えている自己中心的なダメ男。ただし、85歳のカミンスキーは更に上手。肝心な真実は語らないものの、死んだと思っていたかつての恋人が生きていると知ると、ゼバスティアンを運転手にして、なぜかスイスからベルギーまでのドタバタな珍道中を繰り広げることになります。この作品にはアート界への痛烈な皮肉や、老いること、名声を得ることなど様々なテーマが含まれていますが、いちばん注目してほしいのはゼバスティアンの変化。

野心とエゴにまみれた言動を繰り返していた彼が、カミンスキーとの旅を続けるうちに根拠のない全能感を打ち砕かれ、“何も持ち合わせていない”ことを知る過程はちょっぴり感動的。アラサーでやっと本来の自分を見つけたゼバスティアンのトホホな姿に、不思議とエールを送りたくなるはずです。ちなみに淡い期待を抱きながら元恋人に会いに行ったカミンスキーの旅のラストにも注目。『ラ・ラ・ランド』よりも切ないもしものドラマは、人生の残酷さとおもしろさを象徴しているようでした。ゴールデンウィークもあとわずか。凸凹コンビの旅の道連れになってみては?

(文/松山梢)

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