【今月のイチオシ☆BOOK】この町で生きていくということ。  町田そのこさんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

この町で生きていくということ。  町田その画像_1
新潮社 ¥1500

心を揺さぶる小説は数多くあるけれど、この5つの物語は決して力ずくで揺さぶらない。揺さぶらずに、自分でも忘れていた感情をそっと引き出し、丁寧に心を震わせてくれる。この世はよく、池や海など水の世界にたとえられる。そんな、すべてが見渡せてしまう池や、どんな生き物をも包み込む海の中で、消えかかったり、色を変えたり、光り輝いたりしながら必死で泳ぐ魚のような女たちを描いた連作短編集。どの作品にもミステリー的な秘密が隠されているけれど、冒頭作である『カメルーンの青い魚』(第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作)がもたらす驚きは目を見開くほど鮮烈。続く表題作では、その驚きが救いへとつながる。これがデビュー作とは思えないくらい美しく完成されていて、作者のつむぐ言葉にもっともっと身をゆだねたくなる。

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