真木よう子、井上真央、大泉洋の豪華共演!の画像_1
大ヒット中の『万引き家族』を手がけた是枝裕和監督は、著書『映画を撮りながら考えたこと』の中で「愛は映るのだ、と気づいた」と書いていた。徹底してホームドラマを描き、なにげない日常を温かな眼差しで切り取ってきた監督の作品を見たことがある人なら、きっとその言葉に深くうなずくはず。今回紹介する『焼肉ドラゴン』は、劇作家・鄭義信が自身の舞台を映画化したもので、タイトルだけではまったく伝わらないけれど、れっきとしたホームドラマ。そしてこちらも同様に、愛が映っている。ただし、是枝作品には温泉にじんわり浸かったような心地よさがあるとしたら、こちらは激アツの間欠泉のように、スクリーンから愛がドバーーーッと容赦なく吹き出している感じ。その愛に触れたら最後、枯れてしまうんじゃないかと思うくらい涙もドバーーーッとあふれ出して止まらなくなる。

舞台は高度経済成長まっただ中の1969年。描かれるのは伊丹空港そばの集落で焼肉屋を営む在日韓国人家族6人の激動のドラマ。まず驚くのは、登場人物たちがとにかくやかましいこと。常連のおっちゃんたちを交え、毎日怒鳴ったり泣いたり取っ組みあったり。もやしが宙を舞い、マッコリが口から吹き出されるその様は、とてつもなく生々しくて暑苦しい。いざこざの原因はしょうもないケンカだったりもするけれど、根底には在日韓国人に向けられる偏見やいじめ、父が戦後に「醤油屋の佐藤さんから買った」と言い張る国有地からの立ち退き問題など、時代の波に翻弄された家族が直面する言い表せない悲しみが、確実に、色濃く横たわっている。そのため時に息をのむほどシリアスな出来事が描かれるけれど、この映画では、そういう大事な場面の次のシーンで必ずと言っていいほど真逆の笑いが描かれる。そのバランスが、なんというか本当に優しいのだ。

戦争で左腕を失い、家族を養うために必死で働いてきた父が「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとええ日になる」と言うように、人生は時に残酷だけど、それ以上に人間はたくましい。そう実感させられる素敵な映画だ。美人3姉妹を演じた真木よう子、井上真央、桜庭ななみ、次女の婚約者を演じた大泉洋ら日本人キャストはもちろん、愛情深い父を演じたキム・サンホ、大らかな母を演じたイ・ジョンウンら韓国の名優の演技もとんでもなく魅力的。この映画には愛だけでなく、天使も映っている。

(文/松山梢)

●上映中

Ⓒ 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 
映画『焼肉ドラゴン』公式サイト