遠く離れた土地の過去、未来、現在を旅をする。谷崎由依さん『鏡のなかのアジア』を読もう。【オススメ☆BOOK】 

最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】言葉に連れられて幻想的な旅へ

鏡の中と外は、よく似ているけど違うもの。のぞき込んでみれば、言葉に縁取られて見たことのない世界が姿を現す。チベット、台湾の九份、京都、インドのコーチンにマレーシアのクアラルンプール。なぜ、見たことのない景色を懐かしく思うんだろう? なぜ、会ったことのない人の想い、その逡巡や幸せまでもが心にしみてくるんだろう? 5 つの場所の5 つの物語の内側で、言葉が記憶をつくり出し、さざめいて、ルビが舞い、オノマトペが躍る。空気が動いて音を聴かせ、匂いや湿度を立体的に伝えてくる。《過去が現在を夢見ていた。過去の内側に潜ってゆけば、その果てには現在が、あるいは未来がある》という不思議な入れ子構造が、いくつもの時代と空間を鏡の中に映し出して、《書物は世界を映すもの、世界を描いて閉じ込めた鏡のごときもの》であることを教えてくれる。川の水のように流れていく日本語の、青空へ飛び立っていく想像力の連なりに乗っかって、遠く離れた土地の過去と未来と現在をめぐって旅をする。幸福な驚きに満ちた読書の時間を。

【イチ押しBOOK1】谷崎由依さんの『鏡のなかのアジア』

僧院に暮らす少年。古都にやってきた学生。木に、人に、形を変えながら生き続ける男など、言葉の面影を追う人々の時間と、降り注ぐ言葉が心地よい。5 つの短編を収める。(集英社 ¥1600)

【イチ押しBOOK2】コルタサルさん〈訳〉寺尾隆吉さん / 『奪われた家/天国の扉 動物寓話集

アジアから南米へ。幻想の糸が伸びていったその先にはコルタサルがいる。生誕から100年以上がたつアルゼンチン作家の文章には、かつて国語の教科書で触れた人もいるかもしれない。その『占拠された屋敷』は『奪われた家』に、『天国の門』は『天国の扉』に、と改題も加えた新訳が完成。日常のふとした瞬間に調和が乱れるも登場人物にはあらがうすべがない。南米の太陽に照らされた言葉がギラリと光って、世界のもうひとつの顔を描き出す
正体のわからない何者かが家に入り込んで暮らしを脅かす『奪われた家』、乗客や乗務員の言動に不安を呼び起こされる『バス』など、不透明な驚きと幻想性をまとった短編を集める。光文社古典新訳文庫シリーズから。(光文社 ¥780)

【ほかにもあります★オススメBOOKをご紹介】

『家の中で迷子』/  坂口恭平さん

福岡の天神で迷子になった記憶が解凍されると、部屋の中に森が現れ、水が満ちる。夢とも現実とも違う、もうひとつの世界に迷い込み、老人や少女に出会い、歌とネズミを懐にいくつもの記憶をたどる冒険譚。(新潮社 ¥1400)
『せかいいちのいちご』 / 〈作〉林 木林さん〈絵〉庄野ナホコさん

赤く、つややかに、甘酸っぱい芳香を放つ小さな宝石。氷の世界に暮らすホッキョクグマのもとにいちごが届いた。初めましてのウキウキする心や、おしゃれをする喜びまでも思い出させてくれる美しい絵本。(小さい書房 ¥1800)
『ビューティフル・エブリデイ』① / 志村貴子さん

母が再婚した。高校生の兄と中学生の妹ができた。5 人になったできたてほやほや家族の人間模様が、揺らぎながら、絡まりながら進んでいく“美しき日々”。記憶の扉や未来への思いも描かれる、連作シリーズマンガ。(祥伝社 ¥900)


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MORE2018年10月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/鳥澤 光
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