最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】恋も愛も怪奇も、お任せあれ!

2カ月連続刊行された『私はあなたの瞳の林檎』と『されど私の可愛い檸檬』。恋と家族。ふたつのテーマをじっくり煮こんでみたら、爽やかだけど味わい深い、言葉がビュンビュン疾走しながらも心にしみてくる、ふたつの作品集が誕生した!(拍手)。1冊目の『〜林檎』に収められるのは、10代の恋と愛を描いた3編。《どこかを見るたびに喜びと悲しみが入れ替わる》ような恋の不思議もあれば、《私はもっと私を信じなきゃいけない。私自身を信じられないと、周りの人のことも信じられないのだ》という力強いエールもある。怪奇や怪異ではなく、人の心の動きを丁寧になぞっていくことで不思議を取り出し、世界を温めることも人を傷つけることもある「愛おしさ」の正体を描き出す。ノスタルジックに過去を振り返るだけではなくて、今に、未来に、きっと最後の瞬間までつながっていく愛の物語。言葉をストレートに心の奥まで届けることにかけては舞城王太郎は最強の投げ手であるし、舞城入門にもぴったりな一冊なので、読み終わったら気になるあの人に貸してみるのもいいかも?

【イチ押しBOOK1】舞城王太郎さんの『私はあなたの瞳の林檎』

恋と家族。「愛おしさ」の正体を描く『私はの画像_1
ピュアな気持ちは力強くて甘酸っぱい。初恋の女の子への想いがつづられる表題作のほか、天才に憧れる美大生の心の揺れを描く『ほにゃららサラダ』、生きること、恋する気持ちを考える『僕が乗るべき遠くの列車』を収録。(講談社 ¥1500)

【イチ押しBOOK2】舞城王太郎さん、MASAFUMI SANAIさんの 『深夜百太郎 入口』

さかのぼること3年半前、2015年の春から夏にかけての100日間、深夜のTwitterで発表された物語があった。舞城王太郎による100の掌編と、佐内正史による100のモノクロ写真がつむぐ不思議な臨場感と手ざわりをたたえた百の物語が、夏の夜を静かに静かに震えさせていた記憶。それは『深夜百太郎』の「入口」と「出口」としてまとめられ、白くて黒い扉の向こうから、今もこちら側を見つめ続けている。冬の夜、部屋を暖かくしてご入場あれ。
恋と家族。「愛おしさ」の正体を描く『私はの画像_2
ホラーな舞城王太郎の世界の入口はここにある。短く、しかし執拗につづられる怪奇な言葉と暗い写真。まずは試しにと目次をめくってみれば、文字のささやき声まで聞こえてきて、肌と心がぞわりと粟立つ50編。(ナナロク社 ¥1500)

【ほかにもあります★オススメBOOKをご紹介】

恋と家族。「愛おしさ」の正体を描く『私はの画像_3
『悲しくてかっこいい人』/イ・ランさん 〈訳〉呉 永雅さん

歌い、映像をつくり、イラストも描く韓国人アーティストがつづる思いは親密で気持ちがいい。驚きのまっすぐさは友達の言葉のようで、好きにならずにはいられない。笑ったり心配したりしながら読むエッセイ。(リトルモア ¥1800)
恋と家族。「愛おしさ」の正体を描く『私はの画像_4
『R先生のおやつ』/雲田はるこさん 福田里香さん

グレイヘアのお菓子研究家・R先生と、助手のKくん。ふたりのメガネ男子がおやつを作り、食べる(ときどき、お酒も飲む)。漫画と写真、コラムがセットになった25のレシピとR先生の佇まいにときめく! (文藝春秋 ¥1100)
恋と家族。「愛おしさ」の正体を描く『私はの画像_5
『鹿踊りのはじまり』/〈作〉宮沢賢治 さん〈絵〉ミロコマチコさん

岩手や宮城、愛媛の宇和島に伝わる伝統舞踊・鹿踊をモチーフに、宮沢賢治が生み出した名作童話が絵本に。ミロコマチコが描くカラフルな線が東北弁の力強さとやわらかさに呼応して、鹿踊のごとく躍動する。(三起商行 ¥1500)


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MORE2019年2月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/鳥澤 光
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