最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】自分の枠を明らかにしてくれるもの

本を読む手を止めて顔を上げる。目をつむると金色に光る草原が見えて、いくつもの思いと記憶の破片が反射しあって浮かび上がる。本の中に連れていかれるのとはちょっと違う、本と現実がほんの少しだけ交わる秘密の時間が訪れる。現代美術の作家として写真や映像作品を撮ってきたミヤギフトシが、画ではなく文字でつくる小説集『ディスタント』。その言葉が喚起させるのは、映画、ゲーム、文学、音楽とお酒、いくつもの景色。でも実のところ、喚起されるイメージは読み手によってずいぶん違うものになるはずで、そうして読まれることで世界が立体的に広がっていく作品なのだと思う。語り手の《僕》は、沖縄で育ち、大阪へ、東京へ、ニューヨークへ行く。恋もする。《僕をあなたの部屋に連れていってほしい。そして、あなたと僕、ふたりの写真を撮らせてほしい》と見知らぬ男の写真を撮る。内側と外側、自分と他人、この場所とあの場所、撮る人と撮られる人。「あわい」や「境界」と呼ばれる線はどこに引かれるべきなんだろう? 自分をかたどる枠線を確かめるように読みたい。

【イチ押しBOOK1】ミヤギフトシさんの『ディスタント』

本と現実がほんの少しだけ交わる秘密の時間の画像_1
沖縄で過ごした少年期から、2000年代のN.Y.での生活へと続いていく、自分と世界を見つめる《僕》の旅。作者のライフワークである「アメリカン・ボーイフレンド」シリーズの小説版が完成。(河出書房新社 ¥1800)

【イチ押しBOOK2】大島弓子さんの『ロスト ハウス』

閉じられているはずの空間が《解放区》になることがあることを、『ロスト ハウス』は教えてくれる。王道からそれた道を歩いている時、世界が自分に背を向けていると感じる時、失われたものに心がとらわれてしまう時。《全世界を部屋にしてそしてそのドアを開け放》ってくれたよき人の恩恵を深呼吸するように吸い込めば、きっと大丈夫。この漫画のラストシーンのように、世界は美しく反転して、すべてをきっぱり受け止めてくれる。
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幼い頃隣に住んでいた《鹿森さん》は、部屋のドアを開けて《解放区》を与えてくれた。大学生になったエリは、趣味も特技も人生の目的もないままその場所を想い続けている。そんな彼女にひとりの男の子が恋をして……。(白泉社 ¥619)

『私と鰐と妹の部屋』『ドルジェル伯の舞踏会』『すぐにおいしい! おつまみ200』【オススメBOOKはこの3冊】

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『私とと妹の部屋』/大前粟生さん
流れ星に《かっこよくなりたい》と願ったせいで目からビーム。汗をかいては靴をはき替え、鰐に妹の、妹には鰐の話を聞かせて話やまない姉もいる。数ページごとに切り替わっていく、奇妙な手ざわりの53編。(書肆侃侃房 ¥1300)
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『ドルジェル伯の舞踏会』/ ラディゲさん 〈訳〉渋谷 豊さん
20世紀初頭の華やかなフランス社交界を舞台にした、伯爵夫妻と美しい青年の三角関係の物語。人物の心の揺れを緻密に繊細に書きつけた作家は20歳でこの世を去った。天才作家が遺した恋愛心理小説の傑作を新訳で。(光文社 ¥840)
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『すぐにおいしい! おつまみ200』/コマツザキ・アケミさん
家飲みが楽しくなる、お酒のお供&おかずレシピが大集合。火を使わない冷菜、野菜たっぷりサラダ、お腹を幸せにする肉や魚にほろ酔い気分でもパッと作れる締めのひと品まで。シンプル美味な約200品の提案。(主婦と生活社 ¥930)

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MORE2019年7月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/鳥澤 光
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