最近発売された話題の本や永遠に愛される名作などから、キーワードに沿った2冊のイチ押し&3冊のおすすめBOOKをご紹介します。

【今月のキーワード】甘い記憶をたどった先には?

記憶とは不思議なもので、それは直線的に連なっているわけではなく、濃淡もあれば時とともに形を変えていくものも、さっぱりと消えてしまうものさえある。だけどアイスクリームにまつわる記憶は、アイスクリーム自体のはかなさとは対照的に、なかなかどうして鮮やかだ。そのわけはきっと、それが「幸せな時間」と結びついているから。特別な日のアイスケーキ、パキッと半分に折って分けあうアイスキャンディ、お出かけして飲んだクリームソーダ、旅の道すがらで食べた冷凍みかんに、友達の家で出合った初めての味。ページをめくり、可憐な姿を眺め、著者の言葉に触れるうち、子ども時代を彩るカラフルな記憶が押し寄せて、幸せな時間を一緒に過ごした人たちの顔まで思い出させる。甘い記憶を頼りに本の中をめぐって、いつかの味を探してみるのも、大人の特権を駆使して「地元アイス」を訪ねる旅に出るのもいい。お取り寄せが叶う商品は、アイスクリームと一緒に土地の空気を少しだけ送り込んでくれるはず。地元で、東京で、旅先で、甘い記憶にひととき、ふたとき浸りたい。

【イチ押しBOOK1】甲斐みのり『アイスの旅』

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紙の上をリズミカルに彩るアイスクリームが200種以上。著者が旅先で出合った想い出の味、東京で食べられる名品、北海道から沖縄まで、一部はお取り寄せもできる全国の「地元アイス」も大集合。暑い日が待ち遠しくなる一冊。(グラフィック社 ¥1600)

【イチ押しBOOK2】雁 須磨子『うそつきあくま』

甘い記憶としてしまっておければよいけれど、甘いだけではすまないのが恋とか愛とかセックスの話。先輩作家と元アシスタントという漫画家同士、憧れの受け渡しからスタートした関係は、けなげさと不器用さ、執拗さと独占欲にまみれてツルツルリ、思わぬ方向へ転がっていく。不調の時はぶっきらぼうに連絡を断ち、手を差し伸べればホロリと甘えた顔を出す。それでも相手を自分だけのものにしたいと願う恋のさがを繊細に描く名作BL漫画。
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先輩&後輩漫画家の唐突に始まった関係は、先輩の劣等感によって揺れてこじれて不意に途切れる。恋することの幸せと愛するがゆえの苦しさが、それでもあふれ出る幸福の描写が、読み手の心の真ん中を温める。(祥伝社 上下巻各¥680)

『彼女たちの場合は』『本にまつわる世界のことば』『七つのからっぽな家』【オススメBOOKはこの3冊】

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『彼女たちの場合は』/江國香織
行き先も決めずに始まる14歳と17歳のふたり旅。バスに乗り、橋を渡り、犬を追う。人との出会いに背中を押されてニューヨークから北へ南へ、西へ東へ。世界をこの目で見つめるための新しいロードノベル。(集英社 ¥1800)
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『本にまつわる世界のことば』/温 又柔/斎藤真理子/ほか 〈絵〉長崎訓子
小さな物語のような単語やことわざ、慣用句。世界中から集められた「本の言葉」を小説家や翻訳家が訳し、掌編やエッセイとともに届ける。美しい挿絵と言葉に運ばれて地球の反対側まで飛んでいけるアンソロジー。(創元社 ¥1600)
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『七つのからっぽな家』/サマンタ・シュウェブリン 〈訳〉見田悠子
全裸で庭を駆ける老人と幼児、埋められる器、不意の出会いにひそかな交流。日常という色彩の上に奇妙な影が差し、家という箱の中に不穏が詰め込まれる。現代南米文学を更新する気鋭による7編を収録。(河出書房新社 ¥2000)
原文/鳥澤 光