年齢を重ねるたびに、どんどん生きやすくなっている気がします。

【三浦しをんさんインタビュー】日常にこその画像_1
作家・三浦しをんさんの、笑えて、ときに心にじーんとくるエッセイ集『のっけから失礼します』が刊行。何気ない日常を軽妙な語り口でつづった本書は、三浦さんの“妄想力”、“観察力”、“徘徊力”、“昼酒力”、“熱中力”の5つの力が炸裂! なかでも、妄想力には脱帽。その力はいつから発揮されてきたのか?

「小さい時から、私のモットーは、現実を直視しないこと。日々起きるつらいことを、妄想で楽しいことにすり替えてるんです。でも、そればかりだと、なんでも自分に都合がいいように解釈しがちに。妄想は、危険と紙一重だから、誰にも危害を加えない程度の妄想にとどめてます(笑)」

名言を言うタクシー運転手に、ドSのドクターなど、今作には個性際立つ市井の人々が大勢登場する。それは、三浦さんの“観察力”と“徘徊力”の賜物なのかもしれない。

「誰しも、興味関心のあるものに対しては観察力に優れていると思うんです。私は、人への関心が高い。だから、人を深く観察してしまいがちで。それでもって、目的地を定めず、徘徊するのも好き。出会いのための出会いの場は苦手ですが、偶然の出会いに対しては、来るもの拒まず。もしかしたらこのスタンスが、面白い人に出会える確率を高めてくれているのかもしれませんね(笑)」

本書は、読み進めるほどに、肩の力をすっと抜いてくれるような効果がある。それは、まるで昼酒のようなフワフワした心地よさ。

「20代の時って、他人を気にしすぎたり、何ごとにも白黒つけたがったりしますよね。でも、年齢を重ねて経験を積むと、自分にとって大事なものがはっきりする。いい意味でいいかげんになり、周りが気にならなくなって、自分本位になれるんです。そうなるには、“諦め”を知ること。たとえば、原稿の締切りが守れないのはどうしようもないこと。そうやって自分に期待しなくなると、心が軽くなって書けるんです。編集の方は締切り守れ! って感じでしょうが(笑)、こういうのが“昼酒力”として今作ににじみ出たのかな」

最後に、三浦しをんさんと聞いて忘れてならないのが“熱中力”。文楽や宝塚歌劇に加え、連載執筆中に突如ハマったのが、三代目 J SOUL BROTHERS。作中にもたびたび登場し、アツい思いがあふれている。

「今ももちろんハマり中! やっぱり何かにときめくというのは、とても楽しいことですよね。三代目以外の趣味もそれぞれ定点観測して、好きのアップデートは続いています」

パワー感じる最新作、必読です!


みうら・しをん●1976年、東京都出身。2000年、『格闘する者に○』でデビュー。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、『舟を編む』で本屋大賞を受賞。『風が強く吹いている』や『ののはな通信』、『愛なき世界』といった小説に加え、『ぐるぐる♡博物館』などのエッセイ集も人気

『のっけから失礼します』

【三浦しをんさんインタビュー】日常にこその画像_2
雑誌『BAILA』での人気連載に、紀州パンダ紀行など、書き下ろしを加えたエッセイ集。個性的な家族との日々や、オタクの一面を大公開!? ありふれた日常にこそ面白いことが詰まっていると思わせてくれる抱腹絶倒の一冊。読み終わった後は、街の見え方が変わるかも。(集英社 ¥1600)
取材・原文/海渡理恵 撮影/キッチンミノル