「箱根駅伝」の解説者としておなじみの渡辺康幸さん。実はご本人も元「箱根駅伝」ランナーで、早稲田大学時代は1年生から4年連続出場し、3回の区間賞を獲得(うち2回は区間新記録を更新)。人気、実力共に「渡辺さんを超えるスターはいまだに出ていない」とまで言われるレジェンドなのです。そんな「箱根駅伝」を知り尽くした渡辺さんに、MOREモデルの松本愛が、「箱根駅伝」の裏話や、ビギナーでも楽しめるテレビ観戦のポイントを聞いてきました!

「箱根駅伝」は順位がめまぐるしく変わる“コースの長さ”がおもしろい!

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渡辺箱根駅伝は都会のど真ん中の大手町から箱根までを2日間かけて往復するレースです。全長217.1kmを10人の選手がたすきリレーするのですが、10区間すべて20km以上という長い距離を走ります。選手は普段から練習を重ねているものの、怪我や体調不良のリスク、精神的なプレッシャーも大きく、予想外の遅れが生じてしまう可能性もあるんです」

松本「テレビで観たことがあります!」 

渡辺「そうすると抜きつ抜かれつのドラマが生まれるんですよね。例えば1区で出遅れたチームでも、2区の選手が頑張ることによってごぼう抜きが見られることも。順位がめまぐるしく変わるのが、箱根駅伝のおもしろさだと思います」

松本「一番大きく順位が変わるのは2区なんですか?」 

渡辺「多いのは山上りの5区ですね。平地の区間でひっくり返せるのはせいぜい1〜2分の差ですが、5区にスーパースターがいるチームであれば、5〜8分くらい出遅れてもひっくり返せてしまう。東洋大学に柏原竜二さんというスーパースターがいた時は、早稲田大学も苦しめられましたが、山上りのスペシャリストがいる大学は、優勝に近づけると思います」 

松本「今と昔と重要な区間に変化ってあるんですか?」

渡辺「往路で遅れると復路での大逆転が難しくなるので、セオリーとしては、とにかく1区、2区に速くて強い選手を持ってきて、その流れのまま逃げ切る駅伝になってきています。昔に比べたら番狂わせが少なくなったかもしれません」

松本「それはどうしてですか?」 

渡辺全体的にチームのレベルが上がってきているからでしょうね。今はどこも戦力が拮抗しているからこそ、特殊区間である山上りの5区の重要性が高まっているのだと思います」 

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柏原竜二さん 写真提供/月刊陸上競技

監督同士の腹の探り合いは、レース当日1時間10分前まで繰り広げられる!?

松本レースを走るのは選手ですが、箱根駅伝では監督の采配も大きく影響しますよね」

渡辺「そこが肝心なところです。まず監督の役割というのは、選手を走らせるだけでなく、お父さんのような役割も果たしているんです。ほとんどの監督さんは選手と同じ寮で生活していますし、奥さんが一緒に住み込んで食事を作っているチームもあります。もう、“家族”ですよね

松本「へー! 知らなかったです!」

渡辺「一緒に生活することで選手一人ひとりの性格や体調も見えてきますし、それによって『この選手は本番に弱いから楽な区間で走らせてあげたい』とか、『この選手は注目されたほうが力を発揮するからエース区間に持ってこよう』とか、選手に合わせたプランを立てることができるんです。一時代前までは監督主導で強くなったチームもたくさんありましたが、今は選手と同じ目線に立って、若い選手たちの意思を尊重したチームづくりをしないと戦えなくなっている。その時代にあった采配ができる監督であることが大事ですね」

松本「どの選手をどこに使うか、その探り合いもあるんですか?」

渡辺「12月10日に補欠を含め走る選手16人のエントリーをするのですが、12月29日にはどの区間を誰が走るかの区間エントリー10人が発表され、当日の1時間10分前には、補欠にまわっている6人のうち往復合わせて4人まで、入れ替えができるシステムになっています。だから本番で走る選手をあえて当日までばれないように外してみたりするんです。ギリギリまで読み合いが続きますよ

松本「じゃあ当日までドキドキですね!」

渡辺「今は情報社会なので、いつどこから戦略が漏れるかわからない。だからあえて選手たちにも詳しい情報を最後まで伝えない監督もいるほど。ただ僕らからすると、29日の区間エントリーをみた時に、チーム状態の良し悪しは大体わかりますね。当日変更はつなぎ区間で駆け引きをするんですけど、1区、2区、5区、6区の主要区間にエースがはまっていないチームは『故障で出遅れてしまっているのかな?』など、チーム状態が良くないことが読めるんです」

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東海大学・両角速監督 写真提供/月刊陸上競技

渡辺さんだから知っている、5強チームの意外な素顔

松本「今大会の5強と言われているチーム(東海大学、青山学院大学、東洋大学、駒澤大学、國學院大學)の特色を教えてください!」

渡辺「まず、有力な高校3年生をスカウトする場合、その年によっていい選手が流れるチームが違うんです。選手たちが選ぶのは、2〜3年後に優勝できそうなチーム

松本「今優勝しているチームじゃないんですか?」

渡辺「それだとチーム内の競争も激しいので、試合に出られるかわからないじゃないですか。前回大会で優勝した東海大学が今大会でも優勝候補筆頭なのはなぜかというと、4年前の高校時代でトップレベルだった選手たちがこぞって入学したからなんです。その世代が最終学年になり、圧倒的な戦力を持っています。両角(速)監督はアメリカのトップチームを参考にしているので、最新の科学的トレーニングを取り入れています。従来のただ走り込むという練習とは違った、今時のトレーニングの仕方を実践している監督だと思います」

松本「原晋監督率いる青山学院大学は?」

渡辺「がっぷり四つで東海大学とやりあうと戦力では不安がありますが、5区、6区を克服できれば、優勝戦線に顔を出すのかなと。あとはおなじみの原監督節ですよね。いつも運営管理車に乗りながら、選手に『お前の今日の走りはハッピーだ!』とか言ってるんですよ(笑)。僕は解説しながら中継車に後ろ向きで乗ってるんですけど、独走状態とかになると、運営管理車の助手席から僕を見上げて手を振ってくることも。とにかく選手を盛り上げるのがうまいので、今回も原監督の采配には期待です」

松本「では、酒井俊幸監督率いる東洋大学は?」

渡辺「東洋大学は11年連続3位以内に入っている、一番安定しているチームですね。何がすごいかというと、もう酒井監督。見た目がすごく爽やか! 圧倒的ですね(笑)。高校の先生をしていた方なので“教育者”という感じで、東海大学の両角監督や青山学院大学の原監督以上の采配を見せる監督です。選手に愛情は向けるけど、同情はしない。一度チャンスを与えた選手が失敗したら次はない厳しさがありますね」

松本「え、じゃあ選手は絶対失敗できないプレッシャーがありますね」

渡辺「はい。それだけ層が厚いということなんです」

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松本「では、大八木弘明監督率いる駒澤大学は?」

渡辺「最近はだいぶ丸くなりましたが、昔は運営管理車からの声かけも『男だろー!』と怒鳴っていたり、非常にスパルタな監督さんとして知られていました(笑)。今でもあまり選手を褒めないですし、選手たちも、大八木監督から何も言われないと逆に不安になってしまうと思います。今大会では1年生に田澤廉くんというスーパールーキーがいるんですけど、流れを変えられるゲームチェンジャーがいるのは心強いと思います。全体的に戦力も揃っていますし、優勝に近づいていると思います」

松本「なるほど、では最後に、前田康弘監督率いる國學院大學は?」

渡辺「彼は駒澤大学出身で、僕の高校の後輩でもあるんです。大八木監督の下で走ってきたにしては、それほど厳しくないというか(笑)。お兄さん的存在の監督ですね。駒澤大学にライバル意識もあって、夏合宿は頻繁に一緒に練習してます。駒澤大学に勝つために何が足りないのか、選手に教えたいという思いなんでしょうね」

松本「胸を貸す大八木監督もすごいですね」

渡辺「教え子が監督を務める國學院大學に強くなってほしいという気持ちが、大八木監督にもあるんです」

松本「素敵な関係!」

渡辺「國學院大學は今年10月の出雲駅伝で初めて優勝しましたし、箱根駅伝では往路優勝するチャンスがあると思います。今大会をものにするかどうかで、このチームがこれから上に行けるかが決まる、大事な大会になると思います」

松本「前田監督の采配は?」

渡辺「どちらかというと手堅いですね。冒険はしないほうです。僕も若い頃はそうだったんですが、優勝を一か八かで狙うより、確実に3位くらいを狙っていく采配だと思います。これが何度も箱根駅伝を経験している大八木監督みたいな名将になると、オーソドックスなオーダーよりも、その年によってメンバー編成を変えて奇襲を打ったりもするんです。それは大八木監督だけでなく原監督、酒井監督もうまいと思います」

走行距離は1か月約1,200km! 選手の知られざる日常とは

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松本「私は最近ジムでランニングを始めたのですが、20kmってハーフマラソンと同じくらいの距離ですよね。その距離を1km約3分ペース(ランニング初心者からすると全速力!)で走るなんて想像がつかないのですが、選手にとってはどの程度の長さなんでしょう?」

渡辺「それほど長くはないですね。普段から30〜40kmという距離を毎日走り続けているから、逆に短く感じるくらいです」

松本「え! 毎日30〜40km?」

渡辺「まず、早いチームは5時、遅いチームでも6時から朝練をして15kmくらい走ります。そして大学の授業を終えて16時くらいから25〜30km走るわけです。だから1か月に換算すると約1,200km。どれだけすごいかわかりますよね?」

松本「す、すごすぎてわからないです(笑)」

渡辺「どのチームも門限は21時半とかですけど、もう練習したら食事して寝るだけ。それだけみんな走ることが好きなんです。遊ぶことよりも、走る喜びのほうが勝ると思いますね。オフも夏合宿後と箱根駅伝後だけで、トータルしても1年間で10日くらい。そこで帰省したとしても、1日1回は走りたくなるんです」

松本「じゃあ、365日の中で1日も走らない日はないくらい?」

渡辺「そうですね。瀬古利彦さんや高橋尚子さんたちもそうですけど、走ることがドライブ感覚だってみなさんおっしゃいますね。2〜3時間山に走りに行くのも、彼らにとってはキツいトレーニングというよりも楽しいドライブなんです。もちろん試合本番は苦しいですよ。特に大学生は箱根駅伝のために1年間苦しいトレーニングを重ねてきている。でも、一度優勝を経験すると、選手も監督もまた優勝したくなるんですよね。だって、沿道からは応援されるし、大学に帰れば学生からも教授からも一目置かれる。勝てばいいサイクルが出来上がるんです」

繰り上げスタートには、レジェンドも涙!

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松本箱根駅伝の一番の魅力といえる、たすきをつなぐことの魅力は?」

渡辺「実は走っているときは集中しているのでそれほど頭にないんですけど、次の走者に渡すためにたすきを取った瞬間、チームメイトや自分の汗の重みを感じますね。笑顔で待ってくれているチームメイトに『頑張ってこいよ!』と肩を叩いて渡すあの瞬間の思いは、やっぱり一緒に生活を共にしてきた“家族”だから生まれる感覚だと思います。メンバーから外れた選手から“お前に託すぞ”というメッセージがたすきに書いてあったりしますし、それを見て奮起したりもしますしね。そういう意味では、走る間は孤独でも、やっぱり箱根駅伝はチームスポーツだと思います

松本「ちなみに長距離の部員って何人くらいいるものですか?」

渡辺「平均すると40〜50人。多いチームだと70〜80人です。多いですよね。大学によっては1軍寮と2軍寮で分けられていたりもします。当日走る選手は10人ですが、それだけ多くのチームメイトの思いを背負っているということなんです」

松本「重みが伝わりますねー! 渡辺さんが特に注目してほしい感動ポイントは?」

渡辺復路のシード権争いやたすき渡しは注目です。特に後半になると繰り上げスタートが多くなる可能性があるので、自分たちのチームのたすきをなんとかつなげようと必死に走っている選手たちの姿は、中継車に乗っていても泣けるんです。残念ながらたすきがつながらない瞬間は涙が出ますし、努力してきた選手たちの気持ちもわかるので胸が熱くなりますね」

松本「では、そんな渡辺さんにとって、箱根駅伝とは?」

渡辺人生の全てです。箱根駅伝での経験がなかったら僕の人生は大きく変わっていたでしょうし、あの大会があったからこそ、今も陸上競技の現場に携わることができている。そういう意味でも、重要な大会だったと思います。今大会でも、たくさんの思いを抱えて走る選手たちのドラマにぜひ注目してください

渡辺康幸さんにとって「箱根駅伝」とは?

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<プロフィール>
わたなべ・やすゆき●1973年6月8日生まれ、千葉県出身。住友電工陸上競技部監督。早稲田大学在学中は総合優勝1回、2位3回を経験。2004年〜2015年は母校の駅伝監督を務め、2010年度は出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の学生三大駅伝3冠を達成した。
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「箱根駅伝」は、テレビ観戦で盛り上がろう!
サッポロビール新春スポーツスペシャル
『第96回東京箱根間往復大学駅伝競走』(日本テレビ)

■往路
1月2日(木)7:00~14:05(7:50~全国ネット)
■復路
1月3日(金)7:00~14:18(7:50~全国ネット)

*関連番組もチェック!
『箱根駅伝 絆の物語』
12月22日(日)13:45~14:40(日本テレビ)

4夜連続事前番組『夜な夜な箱根駅伝』
12月23日(月)~26日(木)各日24:54~25:04(日本テレビ)

『箱根駅伝 区間エントリー徹底分析SP』
12月30日(月)24:59~25:29(日本テレビ) 

『箱根駅伝 絆の物語&スタート直前生情報』
1月2日(木)5:50~6:45(日本テレビ)

『箱根駅伝 往路ダイジェスト&復路直前生情報』
1月3日(金)5:50~6:45(日本テレビ)

『続報!箱根駅伝』
1月3日(金)14:18~15:00(日本テレビ)

『もうひとつの箱根駅伝』
1月12日(日)13:15~14:30(日本テレビ)

※番組名、放送時間は予定です。
※番組は地域によって、放送日・放送時間が異なる場合があります。また、放送していない地域があります。
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取材・文/松山梢 撮影/中澤真央 ヘア&メイク/福寿瑠美