家族や友人、同僚や上司など日常的に接する人たちとのコミュニケーションで大切なのは、感情的にならないこと。自分と相手の心に意識を向けるポイントを、禅僧であり精神科医の川野泰周さんに教えていただきました。
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教えてくれたのは……

川野泰周さん

臨済宗建長寺派林香寺住職。RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。精神保健指定医、日本精神神経学会認定精神科専門医、医師会認定産業医。住職としての寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたる。従来の療法に加えて、禅やマインドフルネスによる心理療法を積極的に導入している。『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書、共著多数。

読者からはこんな声が

「人数の多い飲み会に誘われたけど、まだ新型コロナウイルスが不安で断りたい……。気まずくならない断り方ってありますか?」(27歳・サービス)

相手への感情ではなく、自分の気持ちを軸に

MORE緊急事態宣言が解除されたとはいえ、不安の感じ方は人ぞれぞれ。これは多くの人が感じる気まずさかもしれません。

川野相手を傷つけたり否定することなく、自分自身の要望も的確に伝える「アサーション」という方法があります。相手や他の人たちに対する感情を理由にするのではなく、シンプルに、「今はこういう状況だから、自分の気持ちを、外へ出て飲むモードに持っていくのが難しいんだよね」と伝えてみては。

MORE:つい相手の立場を気にしてしまいますが、“私”の気持ちをメインに伝えることが大切なんですね。

川野:はい。一昔前は、こうした自分の心に関することを話題にすると、「気の持ちよう」とか、「心がもろい」と根性論で片付けられてしまいがちでしたが、最近は心に観点を置いた話ができる時代になってきたように思います。あるいは「今、仕事が忙しいから、それ以外は自分のメンテナンスの時間にあてている」という伝え方もいいと思いますよ。
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読者からはこんな声も

「地方で離れて暮らす両親。緊急事態宣言が解除されると、マスクをせずに買い物へ行ったり頻繁に外食していて心配です。注意しても、最終的には喧嘩になってしまいます」(29歳・広告)
川野:実はコミュニケーションやソーシャルスキルのトレーニングにおいて、そのスキルを活用する相手として家族や配偶者、恋人が一番難しいといわれています。間柄が近ければ近いほど、「自分は相手のことを分かっている」、「相手は自分のことを分かってくれている」という前提があるんです。

MORE:たしかに! だからこそ、ぶつかりやすい気もします。

川野:関係が近いほど、コミュニケーションに決まったリズム(お決まりのパターン)ができているので、たとえ親切心からでもそのリズムを乱すようなことを言われると、心の中で動揺するわけです。すると、心が自己防衛しようとして反感や否認、怒りなどのネガティブな反応が表れてしまう。

MORE:「どうしてそんなこと言うの」、「私はそういうのが苦手だって分かってるでしょ」となるわけですね。では、どうしたら?

川野:ダイレクトな声によるコミュニケーションというのは、言った瞬間に相手が感情的に反応して消えてしまう。つまり、一瞬の出来事として過ぎ去ってしまうんです。ですから、メッセージが残る形で伝えることもポイントのひとつだと思います。

MORE:LINEやメールに残すということでしょうか?

川野:LINEやメールは便利ですが、親世代からすると非常に無機質なものと感じる人も少なくありません。例えば60歳以上の世代の方にはあえて手紙を書いて、使って欲しいマスクを添えて送ってみる。マスクに一言書き添えることによって、後でじんわりと「本当に心配してくれているんだな」といった思いやりの心が伝わる可能性は高いと思います。

MORE声だと一瞬ですが、文章化することで自分も冷静になれますね。

川野:そうなんです。手紙は送る前に読み返す人も多いので、書いた本人も「言い過ぎちゃったかな」と気づけますよね。

MORE:マスクを添えるのも大切ですね。

川野:人間は「行動変容」、つまり普段の行動を変えることに非常に大きなストレスを感じますから、ただ単に「マスクをして」と言われても、手近になければ使おうとしません。ですから、本人が思い立った時すぐに始められる状態を用意してあげることで、第一歩がスムーズになると思います。形として手元に残るもの、というのもとても重要だと思います。
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禅僧であり精神科医でもある川野さんが、禅やマインドフルネスの考え方を取り入れた「心」や「脳」を休める正しい方法を紹介。41種類の中から自分に合った休息法を知って、セルフマネジメント力を高めて。¥1650/ディスカヴァー・トゥエンティワン
取材・文/国分美由紀