12星座全体の運勢

「大きな物語に取り込まれていく」

6月21日の夏至の日の夕方16~18時にかけて、蟹座1度で部分日食(新月)が起こり、晴れていれば日本全国で欠けていく太陽が観測できます。これは日食と新月、そして一年のうち最も日が長くなる夏至が重なる特別なタイミングであり、時代の移り変わりの上でもひとつの節目となっていきそうです。そのキーワードは、「大きな物語」。これは例えば「むかしむかし、あるところに……」といった語りで始まる昔話のように、歴史ないし共同体のもつ空間的・時間的射程の中に自らを位置づけ直していくことで、個人として好き勝手に振る舞う自由を失う代わりに、手で触れられる夢のような生々しい物語の中へと取りこまれていく。今季はそんな"クラい”感覚の極致をぜひ味わっていきたいところです。

天秤座(てんびん座)

今週のてんびん座のキーワードは、「運命の子」。

天秤座のイラスト
この世に生きるものは誰であれ、自身の母親の子であると同時に"時代の子”でもありますが、その誕生の瞬間が一体いつだったのか、またいつになるのかは誰にも分かりません。

もちろん、偶然というものが存在しないとすれば話は違ってきます。例えば、サルマン・ラシュディ著の『真夜中の子供たち』という小説の主人公であり語り手でもあるサリーム・シナイは、インドがイギリスから独立を勝ち取りパキスタンと別の国家として分離独立した日の午前0時ちょうどに生まれました。

書き手によって、彼はまさに生まれた瞬間に時代の子、そして国家の子となり、彼の前半生は若い国家インドそのものの歩みと軌を一にしていった訳です。そのことについて、サリーム本人は次のように語っています。

何しろもの静かに合掌する時計のオカルト的な力によって、私は不思議にも手錠でつながれ、私の運命は祖国の運命にしっかりと結びつけられてしまったのだ。

ところで、この小説は書き手であるラシュディの自伝的な要素の多い作品ですが、ラシュディ自身は主人公シナイのような他人の思考を受信することができるテレパシー能力は持っておらず、代わりに想像力を駆使してこの物語を作品として書き上げていきました。

その意味で、シナイは被造物であると同時に、ラシュディの協力者ないし伴走者として、彼の人生に力を貸していった、言わばラシュディにとって"運命の子”なのだと言えます。

文章であれ写真であれ料理であれ、自分が創り出したものによって逆に形づくられ、何かに寄与したことによってその何かの一部となる。こうしたことは、今季のてんびん座においても無視できないテーマとなっていくでしょう。

自分を時代や共同体、他の誰かにとっての"運命の子”にしていくべきか、またそのためにはどんな選択をして、何を背負い、何を捨てていかねばならないのか。

今回の日食に際しては、ちょうど小説内のシナイのように、半生を振り返りながらそんなことについてゆっくり考えてみるといいかも知れません。


出典:サルマン・ラシュディ『真夜中の子供たち(上)』(岩波文庫)
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<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ