有村架純 つむぐ彼女。

彼女は普段、決して瞬発的な発言をしない。じっくり、ゆっくり、整理して言葉をつむぐ人だ。だから、表面的には変わりないように見えて心の中ではめまぐるしく気持ちが揺れ動いている。モア世代になって、たどり着いた答えとは。【MORE2018年12月号掲載】

作品に対する母性みたいなものは、大きくなっていると思う。

【有村架純さんスペシャルインタビュー】ドの画像_1
2018年の前半、有村さんは悩んでいた。

「思い出したくないくらいです。本当にしんどかったし、毎日苦しかったから(笑)」

前年の2017年といえば、連続テレビ小説『ひよっこ』で主演を務め、映画『3月のライオン』や『ナラタージュ』では清純派のイメージをくつがえす役で新境地を切り開いた。そして年末の『紅白歌合戦』では司会の大役に抜擢。はたから見れば誰もがうらやむキャリアを築いているし、本人ももちろんその幸せは理解していた。ただし、がむしゃらに走り続けていた足をふと止めた時、「からっぽな私」を実感した。表現の幅を広げたい、引出しを増やしたい、知識を得たい、言葉を知りたい……。強烈な焦りに襲われたのだ。その時の気持ちを5月に発表した写真集『Clear』で吐露している。

「仕事に対する想いや私の内面について、自分から発信するのはなんか違うなって思っていたんです。でも、写真集を手に取ってくださった多くの方々から『私もがんばろうと思いました』という声をいただいたり喜んでもらえたことで、普段言わない心の内をたまには伝えるべきなのかなって、そう思いました」
【有村架純さんスペシャルインタビュー】ドの画像_2
多くの人の目に触れる女優という仕事は特殊だけれど、有村さんが私たちと変わらない揺れる心を持ったフツーの女の子だったことに、救われた人がいたのは確か。最近の彼女のインスタグラムを彩るのは、スタッフや共演者への愛にあふれた感謝の言葉の数々だ。

「毎日あんなにがんばっているスタッフさんたちが報われないのはおかしい、イヤな思いや悲しい思いをしてほしくないって思うんです。だから私は私で、役者の仕事を全うするのはもちろん、発信や宣伝もできるだけがんばるねって感じ。自分のことで精いっぱいだった頃はそこまで考えられなくて。でもここ2年くらいは、作品に対する愛の深さや母性みたいなものが、大きくなっていると思います」

ドラマ『中学聖日記』では、演技初挑戦の岡田健史さんと共演している。

「すっごく楽しいです。自分ががむしゃらだった頃を思い出すし、岡田君も思うようにできないと『悔しいです』と素直に言ってくれるんです。だから『私もそうだったよー』って素直に伝えます。『あの表情がよかったよ』とか、普段はあまり言わないことも、今の彼に対してはちゃんと伝えたいというか。やっぱり大切な作品だと思ってほしいから」

くじけるのは、感情を出せるようになったからかも。

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モアの撮影が行われたのは、ドラマの撮影と主演映画の宣伝に追われていた超多忙な時期。「スタッフのみんなも寝てないので」と語る姿は有村さんらしいけれど、しばらくすると「久々にしびれてます。心が折れそう(笑)」と、消え入りそうな声で本音をぽろり。

「朝ドラを終えてからは忍耐強くなった気もするし、逆になんか弱くなった気もするんです。くじけそうになる瞬間が増えたけど耐えられる、みたいな(笑)。今までより感情を出せるようになったのかもしれないですね。うまくガス抜きができるようになったのかも」
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ただし、いつでも、誰にでも弱さを出す人ではないからこそ、同じ気持ちを共有できる俳優仲間との時間は、かけがえのないもの。

「『ストロボ・エッジ』の共演者と4年ぶりに集まったんです。(佐藤)ありさちゃんがドイツから帰ってきているから会おうよって福士(蒼汰)君が声をかけてくれて。昔は話す内容も浅ーいことだったけど、今はそれぞれお仕事に対する気持ちや意識が全然あの頃とは変わっていて。お互いの成長を感じたし、『そんな考えもあるんだ』って刺激を受けました。(佐久間)由衣ちゃんとお茶したり、(吉田)羊さんのおうちに行ってごはんをごちそうになったり。あと(高畑)充希には、さっきメイク中にテレビ電話しました。彼女も忙しそうだったので生存確認(笑)。『架純も大変そうやな。大丈夫?』って言ってくれて『がんばるー!!』って。そんなふうに日々ハッピーをもらってます。誰とでも仲よくできるタイプじゃないけど、心を許した人にはとことんとろ〜んってなっちゃう(笑)。素直に悩みも伝えます。周りにいる人がすごく愛情深いから、私もそうなりたいって思うんです」

浮輪でぷかぷか浮かんでる感じ。どこに行くんだろう。

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「ただただ耐えて乗り越えるしかない」と思っていた2018年前半も、思い返すと「遠い昔のことのよう」。表情は、さっぱりと明るい。

「今は毎日幸せです。当時は変わらなきゃと焦っていたし、25歳という節目の年への気負いがあったけれど、やっぱり時間と経験とともに変化していくものだから、あんまり焦っても意味ないなって思ったんです。それに、やっぱり根本は“お芝居が楽しい”とか“好き”ってことに変わりがない。あんなにいろいろ考えていたのに、スタンス的には何も変わらなかったんです。2019年の目標とかもまだなーんも考えてないんですよ(笑)。どうなっていくんだろうって、浮輪でぷかぷか浮かんでる感じ。でも振り返ってみたら、きっと何かが変わったって思える時期がくるはず。今は今しかないから、着実にって感じですね」
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自分を変えたい。大胆に成長したいというのは、誰しもが願うこと。でも、目の前の仕事にしっかり向きあい、愛を持って周囲と接し、誠実に日々をつむいでいけば、きっと未来は確実に変わっていくはず。真面目でちょっぴり不器用な彼女の出した答えに、励まされる気がした。最後に、今叶えたい願いは?

「わんこを飼いたいです。ゴールデンレトリーバーも好きだしチワワも好きだし。はあ〜、触りたいなあ。あとはなんだろ。おすしが食べたい。マグロの赤身とかサーモン、納豆巻きや卵が好き。安上がりだねって言われます」

そう言って「ふふふ」と恥ずかしそうに笑った。突拍子もない野望を口にしない、やっぱり心はどこまでもフツーな女の子。有村さんのささやかな願いが、叶いますように。
KASUMI ARIMURA
ありむら・かすみ●1993年2月13日生まれ、兵庫県出身。2010年にドラマで女優デビュー。
取材・原文/松山 梢 撮影/尾身沙紀(io) ヘア&メイク/尾曲いずみ(STORM) スタイリスト/石上美津江 ※この記事はMORE2018年12月号の内容を本ウェブサイト用に編集したものです。