• 監督が天気をテーマに選んだのは、奇跡を起こす話にしたかったから。「夏の次に秋が来ないとか、夏の次にまた夏が来てしまうとか、世の中のことわりをくつがえしてしまうような奇跡を、大切な人のために起こす話ができたらおもしろいと思いました」。晴れを望む人たちのために祈る陽菜、陽菜のために奔走する帆高。ふたりの恋の行方とは

  • 舞台はシトシトと雨が続く東京。晴れ間がのぞく瞬間も最高に美しいけれど、やっぱり圧巻は雨の描写! 監督いわく「ひとつひとつの雨粒もすべてアニメーターによる手描きです。『ご面倒おかけしてすみません』と伝えると、『アニメーターは面倒くさいことをするのが仕事だからいくらでも言ってください』と(笑)。助けられました」
  • 映画『天気の子』で本格的な声優に初挑戦したばっさー。ところがアフレコの作業は驚くほど順調に進み、なんと予定よりも数日早く終了。新海監督が、本人さえも気づいていなかった新たな才能を発掘したよう。

    新海「主人公の帆高と陽菜の声を担当したのが新人の醍醐虎汰朗くんと森七菜ちゃんだったので、彼らを取り巻く大人の須賀役と夏美役には、誰もが知っている方にやってもらいたいと思ったんです。何人か候補の方の声を聞かせていただいた中で、夏美がどういう子かをいちばん教えてくれたのが翼さんだったんです」

    本田「うれしい! でも、アニメに声を当てるのはめちゃくちゃ難しかったです。まず口の動きと声を合わせるのがすっごく難しくて。決められた秒数の中に全然セリフが入りきらないし、どうしよう……ってぼうぜんとしちゃう瞬間があったり。『ここにイントネーションが欲しい』とかいろいろ言われるとだんだんよくわからなくなってきて、結局わからないままやっていたところも(笑)」

    新海「ちゃんと言うことを聞いてくれてると思ってました(笑)」

    本田「でも、監督が最初に『翼さん自身が夏美ちゃんみたいな人だから』と言ってくださって。私の声を聞いた主演の醍醐くんが『夏美がしゃべってる』と言ってくれたこともすごくうれしかったんですよ。……ってことはあまり考えすぎたらダメなんだろうなって思ったんです」

    新海「翼さんは反射神経の人で、その場で言われたことに反射で返してくれるイメージがあったけど、実はものすごくちゃんと準備もしてきてくれたんじゃないかと思ったんです。タイミングもきちんと入っていたし」

    本田「いや……」

    新海「そうでもなかったですか?」

    本田「あはは! いやあ、どうなんでしょうね(笑)。なんか夏美が話すテンポ感がすごく想像できたんですよね。だから……」

    新海「準備してなかったんだー」

    本田「ひー(笑)。いや、でも準備できないですよ。あんなに猫の声のレパートリーを求められるとか思わないじゃないですか」

    新海「飼い猫を抱えた夏美が、『だっさいにゃー』って猫になったつもりで言うシーンがあるんです」

    本田「高めの声、低めの声、中間くらいの声。けっこう何パターンも」

    新海「翼さんみたいに、こちらが指示を出すたびに違うものを返してくれるタイプって珍しいと思います。もちろん人によりますけど。アニメーションって会話のテンポも句読点や瞬きするタイミングも決まってるから、声の正解が見えやすいんです。プロの声優さんは、その正解を察知するのが仕事だから、『あ、これだ』っていう声をすんなり出してくれる。けど翼さんはテンポがしっかりはまっていながらも、感情のお芝居の部分は毎回違うものをくれるし、その幅が普通の人よりもすごくある気がしました。だからこそ、こっちもおもしろくなってしまって(笑)」

    本田「それならよかったー」
  • 3年前に発表した『君の名は。』は、250億円を超える大ヒットを記録。ハリウッドで実写化されることも決定するなど、日本のみならず世界中で多くの人の心をつかんだ。

    新海「僕が『君の名は。』でいちばん思ったのは『劇場でお客さんに笑ってもらえるのがこんなにうれしいことだったんだ!』ってこと。それまでの僕の映画はちょっとシリアスなトーンが多かったんですけど、『君の名は。』は自分の中のチャレンジとして、笑えるシーンを多く入れようと思った作品だったんです」

    本田「『オレたち、夢の中で入れ替わってるー!』っていうセリフ、友達とよく言ってました」

    新海「いやあ、うれしいですねー。そうやって楽しんでもらえたからこそ、次の作品はもっと笑ってもらいたいという思いがありましたね。今回は夏美を演じた翼さんがいてくれたことが大きいんです。まずコメディエンヌなんですよ。夏美は」

    本田「え! そうなんですか?」

    新海「シリアスな場面もあるんですけど、夏美が発するひと言でこちらを楽しい気持ちにさせてくれる。それが、この作品ではすごく大事で」

    本田「はっはっは(照)」

    新海「たぶん、翼さん自身も周りの人を楽しませるエンターテイナーなんだと思います。笑いってタイミングが少しずれると全然笑えなかったり、逆に引かれてしまったりするから、泣かせるよりも難しいんですよね」

    本田「うれしいです。でも私、『天気の子』はいい意味で大衆受けではないと思っていて。よくある結末ではまったくないじゃないですか」

    新海「『君の名は。』が桁違いに観てもらえたので、次の作品の規模が大きくなることはもうわかっていたんですよね。だからこそ、観た人の意見が分かれるようなもののほうがおもしろいんじゃないかと思いました。たとえばもし『天気の子』を小さな規模で公開したら、みんなほめてくれるような気がするんですよね」

    本田「ああ! たしかにそうかも」

    新海「でも大きな規模で公開することで、たぶん、お怒りになる方も出てくるだろうし(笑)」

    本田「あはは!」

    新海「一方で、思ってもみなかったくらいハマる人も出てきてくれるかもしれない。こちらも予想がつかない反応が返ってきそうな映画にしたいと思ったんです」
  • 同じ表現者として、多くの人の注目を集めるふたり。好きなことを貫くための独自のルールもあるそうで。

    本田「どんなものを発表したとしても、結局、いろんなことを言われちゃう世の中ですよね」

    新海「そう。だからしかたないなって思ってます。翼さんの場合はどうですか? 批評って見たりします?」

    本田「私は見ないですね。基本的に」

    新海「僕は見ます。見るのは好きですね。ちょっと悪口言われたりするのも、実はたまらないものが(笑)」

    本田「あはは! やめてー! 監督、ドMがばれちゃう〜!!」

    新海「人はいろいろ違うんだなって思いますよ(笑)。仕事でもそうですけど、周りの人の意見は積極的に聞くんです。でも最終的には、ある程度自分の意見を通して『こっちのほうがいいです』と選ばせていただきます。そうしないと背骨みたいなものが通らない気がして。ワガママを貫くことも仕事では大事だと思います。翼さんは意見を貫くタイプですか?」

    本田「ブレーキが壊れたことにするっていうのも、たまには大事かなって思いますね(笑)」

    新海「ああ、なるほど!」

    本田「私がゲーム実況のユーチューブを始めたのもそういうことで。やっぱり心配する人はどうしてもいるので、止めようとしますよね。でも全員が納得してくれるわけじゃないし、心配する気持ちもわかるから、『ホントごめんなさい!  でもやりまーす』って感じで始めました(笑)。そうできたのは、絶対に成功させるという覚悟があったからだと思います」

    新海「でもユーチューブをやっていることも含めて、オーディションでおもしろそうな人だなと思いました」

    本田「へへへ(照)」
  • 新海監督の作品の魅力は、映像の美しさはもちろん、10代の男女のひたむきでピュアな姿が描かれていること。そこには、監督自身の青春時代の経験が大きく影響している。

    新海「真剣にこういう物語を必要としていたのが10代だった気がするんです。僕は田舎の高校生だったから」

    本田「出身はどちらですか?」

    新海「長野県です。周りに何もない山の中だったから、もっと知らないものに触れたいし、知らない人に会いたいし、知らない世界を見たいって思っている時に、それを与えてくれたのがフィクションの世界だったんです。だから、あの頃の自分に向けてつくっている感じはするかな。翼さんのように高校時代から東京でモデルをしていた人生って、僕には想像できない(笑)」

    本田「普通の学生だったけどなー」

    新海「モデルってもう、社会とか大人と接続してるじゃないですか。僕はそういう経験がなかったから憧れましたよ。いたでしょ? 周りに謎のカッコいい大人とか」

    本田「あはは! 私の周りには厳しいお姉様方ばかり……(笑)」

    新海「あ、そうですか。チャラチャラ楽しんでいるのかと思ってました」

    本田「門限とかがちゃんとある家だったから、20時には帰ってましたよ。モデルの撮影も月に1〜2回しかなかったから、ずっとバイトしてましたしね。おすし屋さんとカフェで」

    新海「えーっ!?」

    本田「ホタテに指をはさまれたり、熱燗が熱すぎて持てなかったり。そんな青春でした」

    新海「それは素敵ですね(笑)」

    本田「監督が、これから20代の恋愛を描く可能性はないんですか?」

    新海「どうなんでしょうね。10代って自分が過ぎ去ってしまったちょっと別の生き物みたいな感覚があるんです。遠いから描いていておもしろいというか。20代だと今の自分と連続感を感じるし、まだ近い気がして」

    本田「でも今回の『天気の子』の夏美もそうですけど、ちゃんと10代の主人公たちを助ける大人が出てきますよね。そういう人たちを見ると、大人もいいなーって思います」

    新海「しかも夏美は、主人公の帆高を助けると同時に、助けられてもいるんですよね。『あ、私も10代の頃は、こういうふうに生きてたな』って」

    本田「それ、すごくわかります! エネルギーをもらえますよね。あと、純粋な気持ちにもなりました」

    新海「ちょっと本当に、太陽を浴びてる気分になるというか。あと、誰ともつきあわないでほしいって思いますよね、このまま」

    本田「あはは! それ、完全に親心じゃないですか(笑)」

    新海「全然思わないですか?」

    本田「思わないです。どちらかと言うと『早く大人になってこっちに来い!』って思っちゃうかも」

    新海「そうですか。でも、いいですね。それって、大人が楽しいから言えるってことですからね。そんな翼さんみたいな20代女性にも、楽しんでもらえる作品であってほしいです」
  • 新海「先ほどワガママを通すことも大事と言いましたが、『君の名は。』とちょっと違うものをつくりたいという思いは、最初からチーム全員で持っていました。音楽を担当してくれた野田洋次郎さんもそう」

    本田「そういえば、『君の名は。』を映画館で観た時、すごいびっくりしたんです。革新的でしたよね。音楽があんなふうに使われているのが」

    新海「ミュージカルみたいですよね。あれは洋次郎さんだからできたと思います。実はしつこい人で(笑)」

    本田「え、そうなんだ!」

    新海「一度オッケーを出したのに、『もう一曲できました』とつくってきてくれるんです。音楽に合わせて絵をつくっちゃったのに(笑)。でもまたそれがよかったりするから、『ここはセリフをなくして音楽だけにしよう』となったりするんですよね。お願いしたようにつくってくれないからこそ、僕が想像していなかった作品ができ上がっていく。今回もチームに恵まれましたね」

    本田「映画をつくっている最中、監督は楽しかったですか?」

    新海「いやあ、でも、ひたすら面倒くさかったですよ(笑)」

    本田「やっぱりそうですよね。仕事には絶対伴うものですよね(笑)。私も現場に行くまでがキツいんですよ。『やだやだ、行きたくない! 朝起きたくない〜』って」

    新海「今回のアフレコも、もしかしてイヤでしたか?」

    本田「イヤじゃないです(笑)。雑誌の撮影もそうですけど、ドラマの撮影と並行している時に違うことができるってめちゃくちゃ楽しいんです。全然違う学びもありましたし」

    新海「僕らもアフレコは基本的に楽しいです。でもやっぱり、99%は面倒くさい作業がある。アフレコに至るまでの1年半は、ずっと紙やパソコンに絵を描いていますからね。3年ぶりの新作ですけど、3年サボっていたわけじゃない(笑)。そうやって面倒くさいなって思う中に、アフレコみたいな1%の楽しい瞬間があるから、続けられるんでしょうね」
  • 「思いがけないことを言うキャラクターが好き」という新海誠監督が『天気の子』で本格的な声優に初挑戦したばっさーのことを「翼さんははっきり言って、そういうタイプです」と太鼓判を押した。トップクリエイターが語る、知られざるばっさーの才能とは。そして、ばっさーが語る、仕事への意外にもアツい想いとは。“好きなこと”をとことん追求してきたふたりの、幸せな“オタク”談義!