「カン・ハヌルはどこに?」 彼史上最もイケてない警官役だけど、回を追うごとにその“姿”にハマっていく

 韓国ドラマ大好き!なライターがおすすめしたい作品を紹介する不定期連載コラムです。今回は、シングルマザーのドンベクが自分らしく咲き誇れるようになるまでを、笑いあり、涙あり、感動あり、ミステリーありで描いたドラマ『椿の花咲く頃』のあらすじと見どころを紹介します。

椿の花咲く頃 勤務中のヨンシク(カン・ハヌル)のソロカット

ソウル勤務から、半ば左遷の形で地元の派出所に異動した巡査のヨンシク(カン・ハヌル)。

『椿の花咲く頃』

全20話
出演:コン・ヒョジン、カン・ハヌル、キム・ジソクほか
Netflixシリーズ「椿の花咲く頃」独占配信中

あらすじ

女手ひとつで息子を育てるドンベク(コン・ヒョジン)に突然訪れた、新たな恋の予感。
シングルマザーへの偏見と差別に負けることなく、幸せをつかむことはできるのか。
愛に傷付き、何度も裏切られた経験から、心に傷を持ったドンベクと、「愛があれば大丈夫」と信じる田舎くさくも善良なヨンシク(カン・ハヌル)。そんな2人を取り囲む、地域密着型のロマンティックコメディドラマ。

椿の花咲く頃 息子ピルグ(キム・ガンフン)と母ドンベク(コン・ヒョジン)の2ショット

息子ピルグ(キム・ガンフン)の髪の毛を愛おしそうに触れる、母ドンベク(コン・ヒョジン)。

ここが見どころ

今回ご紹介するのは、韓国ドラマファンなら一度は耳にしたことがある『椿の花咲く頃』。コメディ、サスペンス、ヒューマン、ロマンスなど、実に様々な要素が複雑に絡まり、視聴者の琴線を絡ませまくった名作です。2019年の作品を、なぜおすすめするのか。
それはカン・ハヌル演じるヨンシクが、めっちゃカッコいいから! 
カン・ハヌルといえば、12月26日にNetflixで独占配信予定のドラマ『イカゲーム』シーズン2出演者のひとり。「彼の姿が待ち遠しい!」という方は、本作をチェックしてみて。イケメンで演技も上手く、“美談製造機”と評されるほどに人柄もいいカン・ハヌルらしさを最も昇華したキャラクターが本作のヨンシクなので、きっと満足いただけるはず。

それでは、おすすめポイントです!

カン・ハヌルを語る前に、ストーリーをおさらい

椿の花咲く頃 ドンベクソロカット

「美人ママ」であり「かわいそうな未婚の母」のドンベクは、近隣の人に心無い言葉を投げかけられることも。

舞台となるのは、オンサンという小さな田舎町(ロケ地は韓国・慶尚北道にある浦項市郊外の九龍浦。ノスタルジックな町並みが良き)。ここに乳飲み子を連れたシングルマザーのドンベク(コン・ヒョジン)が引っ越してきたところから物語が始まります。
幼い頃は母親に、成人してからは恋人に捨てられ、ひとりで産んだ息子と生きていくため、ドンベクはオンサンで「カメリア」という居酒屋を始めます。町の男たちが常連となって店は大繁盛する一方、町の女たちからはあからさまにのけものにされ、妬み嫉みは日常茶飯事。しかし、「母親に捨てられた」過去を持つドンベクは自己肯定感が低く、反論できず、口ごもってばかり……。

そんな時に現れたのが、我らがカン・ハヌル! 

ソウル勤務だった警官・ヨンシクは、優れた捜査勘の持ち主でしたが、正義感の高さゆえに問題を起こしてオンサンの交番に左遷されます。そして、町で見かけたドンベクに一目ぼれ。その後は、猪突猛進にドンベクへの好意を、ただひたすらに示し続けるのです。

ぶっちゃけ、本作を観るとドンベクを取り巻くつらい現実も見えてきます。
シングルマザーであることによって軽んじられたり、未婚の母だと後ろ指を指されたり。しかし本作では、ドンベクが真正面から社会に立ち向かい、悪者をやっつけて大団円……、という話ではありません。性差別、親子関係、自尊心、嫉妬と劣等感、虚栄を張ってしまうこと、地域社会で暮らす……など、一筋縄ではいかない問題をあるがままに取り上げ、現実世界のように行きつ戻りつ、緩やかに変化をくり返しながら、人生という山の斜面を登っていきます。そんなドンベクに影響を与えるキーマンがヨンシクなのです!

ドンベクの「強さ」を肯定する唯一無二のサポーター

物語前半は、町の人々や男性陣からドンベクに対する偏見や蔑視についての場面が数多く描かれます。特に印象的だったのは、「ピーナッツをサービスしろ」と店の大家がしつこく絡んでくるシーン。この大家は自尊心に問題があり、「自分が見下されている」と感じるような言動を相手がとると騒ぎ立てるんです。酒の勢いもあり、どんどんエスカレートする彼は、「この店の店主は笑顔さえもない」と言いがかりをつけ、腕まで掴む始末。「はいはい」と、あしらうこともできるのですが、彼女はキッパリと拒否。

椿の花咲く頃 ドンベクソロカット

「カメリア」で店番をするドンベク。女神のようなたたずまいにドキッ。

「(料理の)代金の中に私の手首や笑顔の代金は含まれていません。ここは飲食店です」

この一言は大家よりも、たまたま店にいたヨンシクの胸に深く刺さったのでした。実はヨンシク、これよりも前に書店でドンベクを見かけて一目ぼれしているのですが、その時はフィーリングだけ。「好き」を最初に自覚したのは、この「声を上げることのできる強さ」。ほれたポイントが「NOと言える強さ」って、目の付け所がカッコよくないですか?

椿の花咲く頃 ヨンシクソロカット

ドンベクが気になって仕方のないヨンシク。

そして、以降ヨンシクの一途でひたむきなメッセージが、その後のドンベクを幾度も支えます

元恋人で子供の父親であるジョンニョル(キム・ジソク)と再会し、「(女手ひとつで育児をする)こんなつらい人生を送ってほしくない」と言われたドンベク。たったひとりで息子を育ててきた8年をまるっと否定された彼女は泣きたくなるほど、みじめな気持ちに。その時、ヨンシクがドンベクにかけた言葉がこちら。

「あなたは弱くない。身寄りのない未婚の母が、ピルグを立派に育てながら店を切り盛りしてる。
責任感もあるし、道徳的に生きている。そのうえ、誰よりも真面目で一生懸命だ。
それって称賛に値することですよ。普通だったらとっくに挫折してます。
だから忘れないで。あなたは誰よりも強くてすばらしい人です。誰よりも立派です」

……こう言われて、ほれない人います?
彼女自身と彼女が築いた歴史を全肯定する言葉にホッとしたのは、きっとドンベクだけじゃないと思います。

椿の花咲く頃 ヨンシクソロカット

写真だとカン・ハヌルみが増しますが、慶尚道訛りのヨンシクも負けていません!

“365日”のヨンシク

ヨンシクドンベクに向けるメッセ―ジの中で「強い」の次にグッとくるキーワードは「毎日」です。ぶっちゃけ、ヨンシクという人物は声が大きくて鈍そうだし、自己肯定感もやたら高くて、人の心の機微とは無縁の人なのかな、と思っていたのですが、回を重ねるごとに、相手にとって必要なことを本能的に感じ取れる人なのだな、ということに気付きます。
こちらはドンベクの誕生日のシーンでの彼のセリフ。

「あなたは一生懸命毎日を生きていると自信をなくして忘れてしまうかもしれない。
だから毎日、繰り返し言います」

そう宣言したヨンシク、「あなたが好きだ」「あなたは僕の誇りだ」「あなたは素晴らしい」と、1日も欠かさずドンベクに伝えます。「ちょっと、しつこくない?」と思ったあなた! 安心してください。自分もはじめはそう思いました。しかし、フタを開けてみたら、児童養護施設に入所した日=母親に捨てられた日が、ドンベクの登録上の誕生日だったんです……。

その誕生日にヨンシクはたくさんの花を飾って、こう伝えます。

「(本当の)誕生日がわからないなら、毎日祝えばいい。僕が毎日あなたを祝福します。
あなたの34年の人生は文句なしに立派です」
「生まれてきてくれてありがとう」

ああ……(好き♡)。彼のナチュラルボーン・人たらし発言のオンパレードに、さすがのドンベクもほだされるかと思いきや、彼女も一筋縄ではいきません。

「本当に好きになっちゃったらどうするのよ」
「どうせいなくなっちゃうんでしょ」
「ウソなんでしょ」

ドンベク
のように傷付いた人は相手を試したり、否定するようなことを言いがちなんですが、ヨンシクは、そんなことなどおかまいなしの屈託のなさで、「半径400ⅿ以内に、このファン・ヨンシクがいますからね」と、相手の懐まで一足飛び!
気付けば自分の心の一番やわらかいところにいる、それがヨンシクって人なんです。

椿の花咲く頃 ドンベクの笑顔ショット

毎日「好きだ」「誇りだ」「素晴らしい」と直球で褒められたら、ドンベクでなくても笑顔になりますよね♡

愛と尊重の伝道者ヨンシク

ここまでイケメンだの、カッコイイだのと散々ほめまくってきたヨンシクですが、物語序盤の港町の巡査・ヨンシクは、とにかくイケてなかったです! 
「カン・ハヌルはどこよ⁉」と叫びだしたくなるほどに見た目がダサいし、動きもダサい(写真ではわかりにくいですが、劇中はすべてがもっさりしてる)。食堂でつまようじを使ってシーシーする姿なんて、想像を超える冴えなさ(笑)。「巡査の制服×カン・ハヌル」という、どう料理しても高級料理にしかならない組合せなのに、弾けないポップコーンのように口の中でジャリッとする残念クオリティーなんですよ。じゃあ、私服はオシャレなのかと言えばそうではなく、襟元とスソがヨレヨレのシャツをインせず、見かねた母親に直されるというね……。
ところが回を重ねるうちに、そのダサさが眩しく見えるのです。それは思い込みや偏見をものともせず、対象の本質を見るヨンシクという男の在り方に視聴者が感化されていくからかも。

椿の花咲く頃 警官姿のヨンシクソロカット

警官の制服なのにそこはかとなくダサい、ウリヨンシク……。

ここでちょっと、ヨンシクのすごさがわかる会話をあげます。

ドンベク「私と一緒にいたら運が悪いのがうつる……」
ヨンシク「僕は最強の運の持ち主なんです。僕の運をドンベクさんに全部あげる」

メンタルの強さとポジティブさが銀河系レベル!

ドンベク「とんだ地雷女(を選ん)だと思って後悔してるでしょ?」
ヨンシク「ドンべクさんがいるところが地雷原だとしたら、なおさら一人にはしておけません」

「ともに白髪の生えるまで」どころか、一緒に地雷原へ飛び込む覚悟まで……ヨンシクゥゥゥ!

こういったトークのおかげか、ヨンシクがダサジャージにサングラスの姿でドローン片手に登場する素敵なシーンがあるのですが、最近見直した際、自分の目には「大谷翔平っぽいな~」と思うくらいに超ド級の脳内補正がされていました(笑)。終盤に行くほど補正率は上がり、ダサジャージだろうが、ヨレヨレシャツだろうが、ズボンにインしてなかろうが、ヨンシク=イケメンにしか見えなくなるのでご安心ください。

そんなわけで、ドンベクの元々の強さを引き出し、それを彼女と周囲に再確認させたヨンシク。相手を理解し、支え続ける存在として特別な魅力を持った彼の生き方は、愛や尊重の在り方の幅を広げてくれます。心に余裕がない時、ささくれ立ってる時、自信を失いかけた時など、本作を観てください。彼の言葉と行動が心に沁み込んで癒されるはずです。  

 

椿の花咲く頃 ドンベク&ヨンシクの2ショット

どう見ても漁師町の冴えないカップルなのに、めっちゃ輝いて見えます!

作品概要

椿の花咲く頃
出演:コン・ヒョジン、カン・ハヌル、キム・ジソクほか
Netflixシリーズ「椿の花咲く頃」独占配信中

椿の花咲く頃|Netflix(ネットフリックス)独占配信中
ライター
中川薫

Kカルチャー・旅・お酒・漫画・音楽・スポーツ観戦好きのライター。ドハマりしたK沼が旅沼に直結し、年間十数回は海外へ。マイブームは「海外の大衆食堂をめぐること」。2023年は釜山&ソウル(韓国)、バンコク&ブリーラム(タイ)、ホーチミン&ハノイ&ダラット(ベトナム)、コロンボ(スリランカ)、リヤド&ジェッダ(サウジアラビア)で爆食。2024年はソウル、ソウル、台湾、ソウルへ。さらに東アジア最大のレインボーパレードである、台湾LGBTプライドパレード「臺灣同志遊行」にも参加。