構想25年! 園子温監督が描くSF映画『ひそひそ星』
園子温と言えば、『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』や『ヒミズ』など、作品を発表するたびに世界中の映画祭で評価され続けている、日本を代表する映画監督。近年は『TOKYO TRIBE』や『新宿スワン』、『リアル鬼ごっこ』や『映画 みんな! エスパーだよ!』など、原作ものの大型商業映画も多く手がけていて、作品の規模やジャンル、テーマを軽々と超える表現の多彩さに驚かされます。そんな監督が自ら設立した映像制作会社シオンプロダクションの第1回作品が、構想25年を経て結実したモノクロームのSF映画『ひそひそ星』です。
舞台は度重なる事故や災害、戦争などによって人口が極端に減ってしまった遠い未来。アンドロイドの鈴木洋子“マシンナンバー722”(神楽坂恵)は、レトロな内装の宇宙船“レンタルナンバーZ”に乗り込み、滅びゆく絶滅種と認定されている人間たちに、さほど重要に思えない鉛筆やタバコの吸い殻、紙コップや写真などを配達しています。アンドロイドとはいえ、宇宙船内の畳を雑巾がけし、歯を磨き、水を飲み、爪を切り、くしゃみをする、どうみても人間のようなのですが、お腹に内蔵されている乾電池(!)を取り替えるなど、確かにマシンであることがわかります。どんな荷物でも瞬時にテレポーテーションできる時代に、なぜ人間が何年もかけて物を届けるのか。マシンである彼女には理解できませんが、「距離と時間に対する憧れは、人間にとって心臓のトキメキのようなものなのだろう」と静かにつぶやきます。
監督はこの作品で「風化しかけた記憶に対しての小さな詩を作りたい」と語っているように、全編を通して登場人物たちがひそひそ声で言葉を発し、静寂に包まれた壮大な宇宙空間を旅するユニークで美しい描写は、映画という映像表現を使った詩のよう。そして3.11の傷跡が残る福島県をロケ地にし、地元の人たちを登場人物として起用するこだわりには、『ヒミズ』、『希望の国』でも描いてきた、震災後の日本人に対する監督の思いが込められています。説明過多のわかりやすい映画が多い中、多くを語らないこの作品は特異に映るかもしれません。それでもまずは、園子温というアーティストが描いた世界観にどっぷりと身を委ねてみて。きっと、これまでに味わったことのない贅沢な映画体験ができるはずです。ちなみに園子温監督に密着し、『ひそひそ星』の撮影の舞台裏も捉えたドキュメンタリー映画『園子温という生きもの』が同時上映されるので、こちらもぜひチェックを。
(文/松山梢)
●5月14日(土)より新宿シネマカリテ他全国ロードショー
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