12星座全体の運勢

「<新しい日常>への通過儀礼」

暦の上では秋が始まる「立秋」を過ぎて最初の新月を迎えるのが8月19日。それは、暑さが落ち着く「処暑」すなわち太陽が乙女座に入る直前、体感的にも夏の終わりを感じさせてくれる蜩(ひぐらし)の鳴く獅子座終盤あたりで起きていきます。

そんな今回の新月のテーマは、「新しい日常へ」。それはどこか空々しく響いてしまう上からの号令によってみな一斉に同じところから始まるものではなく、あくまでここしばらくの悪戦苦闘や悶え苦しむ期間をやっとの思いで抜け出した結果、流れ着いた先で自分がもうすでに新しい日常に立っていることを後から実感していくはず。夢から醒めた後の起き抜けの朝のひとときのようにおごそかに、しかし、確かにこれまでとは決定的に違う世界にいるという確信を胸に、新たな門出の仕度を整えていきましょう。

「もはや夜はなく、<救い主である神>が人間たちを照らすが故に、ランプや太陽の光は要らなくなる」(『ヨハネ黙示録』第二十二章、5節)

この場合の<神>とは、他でもない自分自身であり、あるいは古い自分を先導する新しい自分のことなのだと思います。

蟹座(かに座)

今期のかに座のキーワードは、「偉大なるものの小」。

蟹座のイラスト
岡倉天心によって1906年に英語で発表された『茶の本』は、単なる茶道の概説書ではなく、日本に関する独自の文明論でありその象徴としての「茶」を西洋人に理解させるために書かれました。

いわく、茶道は「「不完全なもの」を崇拝する」ことであり、茶の本質は「人生というこの不可解なもののうちに、何か可能なものを成就せんとするやさしい企て」にあると。より具体的には「象牙色の磁器にもられた液体琥珀の中に、その道の心得ある人は、孔子の心よき沈黙、老子の奇警、釈迦牟尼の天上の香にさえ触れることができる」としています。

また本書の岡倉天心の記述からは、西洋社会におけるアジアへの誤解や偏見のひどさ、冷淡さにずいぶん心を痛めていたことが伺われ、茶の湯も東洋の珍奇で幼稚な奇癖の一つとして笑うだろうとしつつも、「おのれに存する偉大なるものの小を感ずることのできない人は、他人に存する小なるものの偉大を見逃しがちである」と言ってみせる箇所などは、彼の芸術観ないし理想とする文明的態度の姿が端的に表現されているのではないかと思います。

ただ、これらは一朝一夕で出てきた言葉ではなく、後の東京藝術大学の前身である東京美術学校でおこなわれた「日本美術史」の講義や後進の育成、ボストン美術館中国・日本美術部長としての仕事など、長年にわたる啓蒙活動のなかで血肉化したものの表れと言えるでしょう。

そして今期のかに座もまた、これまでの生き様を通して知らず知らずのうちに血肉化してきた自分なりの理想や信念が何らかの形を伴って具現化してきたり、端的な言葉としてそれがこぼれ落ちてくるかも知れません。何気ない「小」なるものこそを大切に過ごしていきたいところです。


出典:岡倉覚三、村岡博訳「茶の本」(岩波文庫)
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<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ