12星座全体の運勢

「月を呑む」

10月1日は「仲秋の名月」です。旧暦8月15日の夜に見えるまあるい月のことを、昔から「月見る月はこの月の月」といって心待ちにされてきました。

厳密には正確に満月となるのは10月2日の早朝ですが、十五夜の翌日は「十六夜(いざよい)」、前日の月は「待宵(まつよい)」としていずれも大切にされ、その際、月に照らされていつもより際立って見える風景や、月を見ることでやはり美しく照り映える心の在り様のことを「月映え(つきばえ)」と言いました。

そして、そんな今回の満月のテーマは「有機的な全体性」。すなわち、できるかぎりエゴイズムに毒されず、偏った見方に陥らないような仕方で、内なる世界と外なる現実をひとつのビジョンの中に結びつけ、物事をクリアに見通していくこと。

ちなみに江戸時代の吉原では、寿命が延びるとして酒を注いだ杯に十五夜の月を映して飲んでいたのだとか。どうしても手がふるえてしまいますから、水面にまるい月を映すことは難しかったはずですが、綺麗なビジョンを見ようとすることの困難もそれとどこか相通じているように思います。ただ、透き通った光を飲み干すと、昔の人は何か説明のできない不思議な力が宿ったように感じたのかも知れません。

牡羊座(おひつじ座)

今期のおひつじ座のキーワードは、「エウ・フェーミアー」。

牡羊座のイラスト
古代ギリシャ語には「エウ・フェーミアー」という言葉があり、「よき前兆を告げること」「吉兆の告知」というほどの意味で使われる一方で、「畏れ慎んで黙ること」「沈黙」の意味を持っていました。

例えば、アイスキュロスの悲劇オレステイア三部作の最終部「恵みの女神たち」の大団円では、復讐の女神たちがその憤怒をアテーナー女神にようやくなだめられ、今後アテネの都市にとって恵みの女神になることを約束し、市内の祭祀の中心地である地下の洞窟に移り住みます。それをアテネの市民たちが老若男女問わず、歌い舞いながら送るのですが、その祝祭の行進の場面で、先導の者たちが女神たちに次のように出発を促すのです。

「―さて、お越しを、荒ぶる女神がた、夜より産まれた産まずの御子たち、賑わい競う楽の音に送られて、どうかお立ちを。喜んでお伴をつとめましょう。
静粛にされよ、国びとら。
―地の下の聖なる奥処にあって、礼拝と供物を手厚く享けられることになりましょう。
静粛にされよ、街びとあまねく。」

ここで「静粛にされよ」と訳された箇所が、先の動詞「エウ・フェーミアー」の命令形であり、<畏れ慎んで沈黙せよ>とも、<神聖な沈黙を守れ>とも訳せるのですが、さらにこの言葉には<吉兆に応えて歓呼する>という意味も持ち、恐らくこれら3つの意味は挙げた意味の順番に変わっていくのでしょう。

つまり、ここでは<沈黙>という所作こそが神託=ビジョンを招きもたらすことに等しく、吉と出るか凶と出るかの分岐の上で普通なら声をあげてしまいがちなところを、じっと耐えてできる限り平静を保とうとすることこそが、<傲慢(ヒュブリス)>を抑える唯一の方法だったのかも知れません。

同様に、今期のおひつじ座もまた肝心な場面でこそ沈黙を守れるかどうかが問われていくことになるでしょう。


参考:アイスキュロス、高津春繁訳『ギリシア悲劇〈1〉アイスキュロス 』(ちくま文庫)
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ