12星座全体の運勢

「月を呑む」

10月1日は「仲秋の名月」です。旧暦8月15日の夜に見えるまあるい月のことを、昔から「月見る月はこの月の月」といって心待ちにされてきました。

厳密には正確に満月となるのは10月2日の早朝ですが、十五夜の翌日は「十六夜(いざよい)」、前日の月は「待宵(まつよい)」としていずれも大切にされ、その際、月に照らされていつもより際立って見える風景や、月を見ることでやはり美しく照り映える心の在り様のことを「月映え(つきばえ)」と言いました。

そして、そんな今回の満月のテーマは「有機的な全体性」。すなわち、できるかぎりエゴイズムに毒されず、偏った見方に陥らないような仕方で、内なる世界と外なる現実をひとつのビジョンの中に結びつけ、物事をクリアに見通していくこと。

ちなみに江戸時代の吉原では、寿命が延びるとして酒を注いだ杯に十五夜の月を映して飲んでいたのだとか。どうしても手がふるえてしまいますから、水面にまるい月を映すことは難しかったはずですが、綺麗なビジョンを見ようとすることの困難もそれとどこか相通じているように思います。ただ、透き通った光を飲み干すと、昔の人は何か説明のできない不思議な力が宿ったように感じたのかも知れません。

山羊座(やぎ座)

今期のやぎ座のキーワードは、「青春の解放」。

山羊座のイラスト
「ぼくは20歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとは誰にも言わせまい」

これは二十世紀フランス文学のなかでも最もよく引用されるであろう、ポール・ニザンの青春小説『アデン・アラビア』の冒頭の一節です。

ここでは「二十歳」とは青春を表すひとつの記号なのでしょう。子供から大人へと向かう過程で、決定的な通過儀礼や生涯忘れることのない痛くて切ない経験をさせられる過渡期のことを、人は青春と呼んで特別視してきた訳ですが、近年では少し事情が違ってきているように思います。

まだ「大人」ではないが「子ども」でもない、そんな「青年」特有の背伸びをすることなく、したがって大きく失敗することもない。現実や将来が「なんか見えてしまっている」という、冷めた認識が諦めとも倦怠感ともつかないまま、熱や高ぶりを抱くこともなく淡々とそこを通過していくように映るのです。

一日もはやく「大人」になりたいと思う時代はとうに過ぎ去ってしまった訳ですが、その代わり、一定の社会人経験を経た後や定年後に大学や大学院に入り直したり、ずっと憧れていた夢や希望を叶えようする人というのも増えてきているのではないでしょうか。

「あの頃はよかった」という過去への虚飾や、「大人」でない者へ美しいイメージを押しつけることで現在のみじめさを埋め合わせようという欺瞞(ぎまん)は、今後はますます成り立たなくなっていくはず。

今期のやぎ座もまた、みずからの「青春」は他ならぬ今や今後にこそあるのだという感覚を改めて深めていくことがテーマなのだと言えます。夢を巧妙に隠しておくことは、もはや大人の節度などでないのです。


参考:ポール・ニザン、篠田浩一郎訳『アデン・アラビア』(晶文社)
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ