12星座全体の運勢

「花時へ立ち返る」 

いよいよ3月20日に「春分」を迎え天文学的にも春となり、その後はじめての満月が3月29日にてんびん座8度(数え度数で9度)で形成されていきます。 

今回のテーマは「触発されること」。たとえば、過去の偉大な芸術や文学作品の洗練された様式に触れることは、瞑想と同じような効果があるのではないでしょうか。いずれにせよ、混沌とした社会の中で新しい価値をさがそうとして迷っている時には、まずもって原点に立ち返ることが重要です。 

ちょうど、この時期の季語に「花時」という言葉があります。古くから、花と言えば桜。ですから、普通は「花時」といえば、桜の花が美しく咲いているあいだのことを言うのですが、とはいえ、私たちは桜が咲く前からいつ咲くかと心待ちにしたり、散り始めてからの方がより風情を感じたりと、それぞれにとっての「花時」を持っていたように思います。 

松尾芭蕉の「さまざまな事思ひ出す桜かな」という俳句のように、その時々に刻まれた思い出は、桜を見るたびに何度も蘇ってくるもの。もしかしたら、ひとりひとりの心の中に、「花時」という特別な時間軸があるのかも知れません。 

その意味で、今期は自分のこころをもっとも触発してくれるような「花時」に立ち返っていけるか、そこでしみじみとしていけるかということが、大切になってくるはずです。 

天秤座(てんびん座)

今期のてんびん座のキーワードは、「仮住まいの花」。

天秤座のイラスト
春がやってきて、道の脇の小さな草花やきらきらと反射する川の流れを眺めながら、ぷらぷらと歩いているうちに、思わず気が緩んで、この人生は、この現実は、このわたしは、夢ではないか。と、頬をつねってみてもまだ信じられないような感覚に襲われる人は少なくないんじゃないかと思います。 
 
いつからか、そんな風に「仮定された有機交流電燈」のような気分になった時には、漢詩を読むようになっていったのですが、最近は、もっぱら俳人の小津夜景さんの『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』という数々の漢詩をみずからの手で訳し、そこに瑞々しいエッセイを添えた本を開くことにしています。 
 
例えば、北宋の女詩人である謝希孟の「芍薬」という詩について書かれた「仮住まいの花」。 
 
「かりそめの花の香りよ 
つかのまの夢の一生(ひとよ)よ 
だからこそ笑って贈る 
この歌に想いをのせて」 
 
「ほんとうのわたし、という物語など気にもとめず、かりそめの生、うたかたの世、うつしよの言といった虚構を堂々と生きる女性ならではの気品がある。この手の気品を綺麗に写しとるには、歌謡の香りをふんだんに薫きしめた訳がふさわしい。たとえば、」 
 
「つゆのまの花のかんばせ 
いのちあるもののはかなさ 
たはむれにさしあげませう 
つかのまのよろこびのため」(小池純代・訳) 
 
「じぶんもこんなふうに、シュレーディンガーの猫的に、存在論的幽霊的に、底なしに奥行きのないリヴァーシブルな死生をうふふと味わいつつ、蛍のように明滅してゆきたい」 
 
ああ、もう。どうしたらこんな風に言葉を紡げるのだろう、と感嘆してしてしまいますが、今期のてんびん座もまた、こうした「こよなき言葉、いとしい意味」を、さらさらと我が身を通して流していく時間を大切にしていけるといいのですが。 


参考:小津夜景『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版) 
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<プロフィール>
應義塾大学哲学科卒。卒業後は某ベンチャーにて営業職を経て、現在西洋占星術師として活躍。英国占星術協会所属。古代哲学の研究を基礎とし、独自にカスタマイズした緻密かつ論理的なリーディングが持ち味。
文/SUGAR イラスト/チヤキ