12星座全体の運勢

「‟想定外”への一歩を踏み出す」

二十四節気で「穀物の種をまく時」という意味の「芒種」を迎えるのが6月5日。実際には麦の刈り取りの時期であり、どんよりとした天気の下で鮮やかな紫陽花やカラフルな傘たちが街をいろどる季節。そして6月6日に起きる射手座の満月は、いつも以上にエモの膨張に拍車がかかる月食でもあります。そんな今の時期のキーワードは「モヤモヤのあとのひらめき」。それは息苦しい勉強に退屈していた子供が、庭に迷い込んだ野良猫の存在に驚き、その後を追い路地を抜けた先で、今まで見たことのなかった光景を目にした時のよう。これから満月前後にかけては、現在の行き詰まりを打開するような‟想定外”体験に、存分に驚き開かれていきたいところです。

乙女座(おとめ座)

今週のおとめ座のキーワードは、「地に落ちよ」。

乙女座のイラスト
「地に落ちる」という言葉は単に物理的に上からモノが落下する際に使われるだけでなく、卑しくなる、堕落する、といった意味でもよく用いられます。 

例えば、太平洋戦争末期、史上最大の海戦とされたレイテ沖海戦に敗北し、いよいよ先行きが危うくなっていく頃に新聞紙上に発表された坂口安吾の『芸道地に堕つ』などは、そのいい例でしょう。

昨今の日本文化は全く蚊の落ちない蚊取線香だ。(中略)職人芸人の良心などは糞喰らえ、影もとどめぬ。文化の破局、地獄である。

かくては日本は、戦争に勝っても文化的には敗北せざるを得ないだろう。即ち、戦争の終ると共に欧米文化は日本に汎濫し日本文化は忽たちまち場末へ追いやられる。

坂口安吾がこう喝破したのはもう75年も前のことですが、昨今のコロナ禍でカミュの『ペスト』がとにかく売れているという日本の書籍事情を踏まえても、じつに耳に痛い指摘となっています。

ただし、彼が叫んでみせた「堕落」とは、そうした愚劣さを引き受けた上で、改めて虚飾を捨て人間本来の姿に徹しようというメッセージでもあったように思います。

そして今のおとめ座もまた、落ちて落ちて底を打つところまで落ちて、何も持たない裸一貫の状態から、もう一度やり直していくことが求められているのではないでしょうか。


出典:坂口安吾『堕落論』(新潮文庫)
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<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ