話題のステージの中から、キーワードに沿ったイチ押し舞台、そして2本のおすすめをご紹介します。

【今月のキーワード】六本木で生まれる新たな名作

伝統と革新——。このふたつの要素が、見事にひとつの世界の中で成立しているのが、六本木歌舞伎。市川海老蔵は、「歌舞伎の新境地を開拓したい」と六本木歌舞伎を、2015年、東京のど真ん中にあるEXシアター六本木で始めた。その情熱と確固たる芸で海老蔵が切り開き連日満員となった六本木歌舞伎のステージは、驚きの連続であり、まさに「新境地」。まず、型や台詞回しの抑揚は古典的な歌舞伎にのっとっているものの、台詞は現代語。歌舞伎に不慣れな人にとっても筋を追いやすい。そして、演出は、第一弾から今回の第三弾まで連続して映画監督の三池崇史が担当。三池監督の持ち味でもある、破天荒でスピード感ある演出は、六本木歌舞伎でもしっかり生きており、見る者を決して飽きさせない。六本木歌舞伎だからこそのキャスティングも魅力的。2017年の第二弾では、海老蔵と22年ぶりの共演を果たした寺島しのぶを迎え、今回は、本格的な歌舞伎初出演の三宅健が参戦! 今年、40歳という節目を迎える三宅にとっても、この舞台が「新境地」となることは間違いなさそう。

六本木歌舞伎 第三弾の題材となるのは、芥川龍之介が“生きるための悪”という人間のエゴイズムに鋭く迫った『羅生門』。巨匠・黒澤明監督による同名映画もあまりにも有名で、1951年、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得した名作であり、黒澤監督の名前や、ひいては日本映画が広く世界に知られるきっかけともなった。時を経て、黒澤監督同様、海外でも評価の高い三池監督が、同じ原作を舞台化するのも非常に興味深い。
六本木歌舞伎 第三弾 羅生門,市川海老蔵,三宅健
【今月のイチ押し☆ステージ】『六本木歌舞伎 第三弾 羅生門』

舞台は平安時代。主人から解雇され生きる糧を失った下人は、荒れ果てた羅生門で途方に暮れていた。その2階では、老女が遺体から髪を抜き取っていた。国語の教科書などを通じて多くの人が知るこの物語が、どんな形で展開されるのかは、幕が開くまでのお楽しみ。◆2/22〜3/10 EXシアター六本木(地方公演あり) ●Zen-A ☎03・3538・2300
『羅生門』デジタル完全版
【今月のイチ押し☆ステージ2】『羅生門』デジタル完全版

芥川龍之介の短編『藪の中』に『羅生門』のエピソードが加わっている。オリジナルは1950年公開。本作は、08年、米映画芸術科学アカデミーの全面協力で復元され、モノクロの映像美を堪能できる。(発売元・販売元:KADOKAWA ¥2800)

オススメステージは、『母と惑星について、および自転する女たちの記録』と『世界は一人』。

母と惑星について、および自転する女たちの記録,芳根京子,鈴木杏,田畑智子,キムラ緑子
『母と惑星について、および自転する女たちの記録』

作・蓬莱竜太×演出・栗山民也で、第20回鶴屋南北戯曲賞を受賞するなど高評価を得た作品が再演に。放任主義の母が急逝した後、その娘である三姉妹が母の遺骨を持ってそれぞれの自問自答の旅に出る物語。三姉妹を演じるのは芳根京子、鈴木杏、田畑智子。母親役にキムラ緑子。◆3/5~26 紀伊國屋ホール(地方公演あり) ●パルコステージ ☎03・3477・5858
世界は一人,松尾スズキ,松たか子,瑛太,岩井秀人,前野健太
『世界は一人』

松尾スズキ、松たか子、瑛太が出演する音楽劇。作・演出は、岸田國士戯曲賞の受賞作家であり劇団『ハイバイ』を主宰する岩井秀人。彼が得意とする個人の自意識の渦を巧みに描く演劇に、前野健太による音楽の力が加わることで、大きな広がりが生まれそうだ。◆2/24~3/17 東京芸術劇場 プレイハウス(地方公演あり) ●パルコステージ ☎03・3477・5858
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MORE2019年3月号・さらに詳しい情報は雑誌MOREをチェック! 原文/小泉咲子
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