人間の傲慢さに気づけた今だからこそ、届けたい“命との向きあい方”がある。

【池松壮亮さんインタビュー】映画『僕は猟の画像_1
京都の山奥で猟をしながら生活を営む千松信也さんに密着したドキュメンタリー『ノーナレ けもの道 京都いのちの森』。2018年NHKで放送された際大きな反響を呼び、300日の追加取材が行われたのちに完全新生映画版となる『僕は猟師になった』が完成。そのナレーションを池松さんが務めている。

「この映画の主人公は〝森の哲学者〟とも呼ばれる千松さん。“自分たちが暮らしていくのに必要な分だけを調達する”というルールを決め、運送会社で働きながら動物と向きあう生活。言葉にすればシンプルですが、ドキュメンタリーを通してそんな千松さんの姿をまざまざと見せられると、どうしても自分の態度を見直さざるを得なかったんです。僕はこの手で自ら命を奪ったわけでもない動物の肉を『好きだ』とか『食べたい』とか思いながら生きている。そんな自分が傲慢に見えて、千松さんの謙虚な生きる姿勢のようなものを共有したくなりました」

作中でナレーションを務める池松さんの声は、動物を愛するがゆえに自らその命と向きあうことを決めた千松さんの世界へと、観る者を誘っていく。淡々としているようで内に熱いものを秘めたふたりはどこか重なる気がして、「池松さんも動物が好きですか?」と、思わずそんなことを尋ねてみたくなった。

「僕自身は飼っていませんが、実家には犬がいます。小学生の頃は、亀を10匹くらい飼っていました。庭を散歩させたり、一緒に冷たい風呂に入ったりした記憶がありますね。ちなみに、その亀たちの名前は全員〝かめ吉〟でした(笑)」

30歳を迎え、近年は中国映画への出演を果たすなど、新境地を開いていく姿が印象的な池松さん。まだ始まったばかりの30代をどんなふうに見据えているのだろう。

「僕は心のどこかで男の旬は30代、40代じゃないかと思ってきて、20代はそこに向かうまでの準備をわりと計画的にやってきたつもりです。ただ、こういう時勢だからかもしれないですけど、自分じゃない誰かが亡くなって自分が生き残ってしまったという罪みたいなものを背負っている感覚が常にあります。振り返ってみれば、平成2年に生まれた僕たちは、圧倒的にそういうことが多かった。普通に生活していても死を近くに感じざるをえなかった。でも、申し訳ないかな生き残った僕は、これからも精いっぱい、同時代に生きる人々と、さらには有限な自然と、生き物と、共に生きていくしかないと思っています」


いけまつ・そうすけ●1990年7月9日生まれ、福岡県出身。2003年にハリウッド映画『ラスト サムライ』でスクリーンデビュー。2019年は映画『宮本から君へ』で第93回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞など、数々の主演男優賞を受賞。公開待機作に中国映画『柳川』がある

『僕は猟師になった』

【池松壮亮さんインタビュー】映画『僕は猟の画像_2
京都大学在籍中に狩猟免許を取得し、伝統のくくりわな猟と無双網猟を学んだ千松信也さん。知られざる猟師の暮らしにカメラを向けたドキュメンタリーを映画化。池松壮亮さんがナレーションを担当する。●8/22〜ユーロスペースほか全国順次ロードショー
取材・原文/吉川由希子 撮影/小林真梨子 ヘア&メイク/FUJIU JIMI