ブレイディみかこ『心を溶かす、水曜日』

日々のモヤモヤを、ちょっとだけグチりたい……。そんな悩めるMORE読者世代の20代女子に贈る、ブレイディみかこさんからのメッセージ。「がんばったのにまだ週の半分……」とため息が出そうな水曜日の私たちを、言葉と共に解放してくれるエッセイ連載です。

少数派でいるのは悪いこと?

結婚についてのイメージイラスト

人と自分を比べることが不幸の元凶。そんなことを言う人は多い。他人と自分を比べて落ち込んだり、嫉妬したりするから人間はストレスを感じるというのだ。自分より優れた人はこの世にたくさん存在するので、他人と自分を比べている限り、幸福にはなれない。ネットや雑誌のお悩み相談で、そういう回答を読んだことのある人はきっと少なくないだろう。

しかし、MOREの読者世代の女性たちと実際に話した座談会で気づいたことがある。特定の他者と自分を比べるというより、多数派(だと自分が思っている人々)と自分を比べてストレスを感じる人もけっこういるのではないだろうか。

「SNSなどで知っている人たちが結婚したとかいう情報が流れてくると、まだ決まった相手もいない自分は少数派なのかも、と思って焦ることがあります」と東京在住のNさんは言った。地方都市在住のMさんもこう話してくれた。「私の周囲では、結婚ラッシュの波は終わり、妊娠や出産のお知らせがどんどん目に入ります。私も将来的には結婚したいし、子どもも欲しいと思っているので、こんなにのんびりしている自分はやっぱりみんなに取り残されているのかなって……」

日本の女性の25歳~29歳では、未婚率が65.8%

MOREの読者世代にとって結婚、出産はそんなに大変なことなのだろうかと思ってデータを探してみた。厚生労働省がまとめた人口動態統計(概数)によれば、2022年の日本の平均初婚年齢は夫が31.1歳で、妻が29.7歳。さらに、国勢調査における2020年時点の女性の年代別独身率もあり、25~29歳では未婚率が65.8%。この数字だけを見れば、「20代後半で結婚していない人は、むしろ多数派じゃないの」と思うのだが、問題は30~34歳で未婚率が38.5%に下がることだろう。なるほど、この間にことを起こさねば結婚できない、つまりは多数派になれないという焦りを生む数字ではある。

SNSで友人の幸せ報告をみて焦るのは悪いの画像_2

けれども、ちょっと考えてほしい。多数派、少数派という括りにそれほど重要な意味があるだろうか。たとえば、世界に目を向けてみれば、フランスやオランダ、スウェーデンのような国では30歳~34歳での未婚率は5割を超えている。つまり、こうした国では30代前半でも独身、という人のほうが多いのだ。それに、晩婚化が進んでいる日本も、将来的にはこうした国々の数字を追う可能性がある。「今」の日本で少数派でも、時が経てばそうではなくなっているかもしれない。

つまり、「今」「この国」で多数派になるために、人生の選択肢を狭める必要があるだろうかということだ。たまたま「今」「この国」に生きているから少数派かもしれないが、別の国や違う時代に生きていたら違っていた、というぐらいの基準は絶対的なものではない。確かに、多数派に含まれていれば安心する部分はあるだろう。「私以外のたくさんの人がこうしているから」と思えば、なんとなくセーフな気がするからだ。

しかし、世の中には多数派のほうが不幸になる道を歩んでいる場合もある。その場合には、少数派のほうが先見の明があることになるのだ。というより、何よりもまず、数の論理に支配されず、冷静に自分の幸福について考えたほうがいいのは言うまでもない。

今日もまた、SNSで心落ち着かなくなる幸せ報告を見てしまった水曜日。多いとか少ないとかいう問題がそれほど大事か考えてみよう。たとえば、めちゃくちゃバズっていて、人気ランキングでも1位になっているスキンケア商品を使ってみたら、なぜか自分の肌には合わずブツブツができてしまった、みたいな経験は誰しもあるはず。人生もそれと同じだ。多数派の生き方があなたに合っているとは限らない。バズるどころか誰も「いいね」してないのに、あなたの肌との相性は抜群で、しっとり潤わせてくれる化粧水のような、そんな人生のほうが生きやすい。

PROFILE

ブレイディみかこ●英国・ブライトン在住のライター、コラムニスト。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)など著書多数

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イラスト/Aki Ishibashi