「正しい」Z世代は尊重されすぎて孤独?
ブレイディみかこ『心を溶かす、水曜日』
悩めるMORE読者世代の女性たちに贈る、ブレイディみかこさんからのメッセージ。「がんばったのにまだ週の半分……」とため息が出そうな水曜日の私たちを、言葉と共に解放してくれるエッセイ連載です。
尊重されながらも煙たがられるZ世代
以前、この連載で「Z世代の新しい風についていけない」と感じている30歳前後の女性たちのモヤつきについて書いた。その回で取り上げたMORE読者世代座談会では、出席者がそのぐらいの年齢の人たちだったので、そういう意見が出てきたのだ。彼女たちは、自分たちは「ちょっと昔の感覚を教えられた最後の世代」だと語り、上の世代と下の世代の板ばさみになっている感覚があるとしみじみ語っていた。
一方、先日のMORE読者世代座談会の出席者たちは、それより下の年代の、20代前半から半ばまでの女性たちだった。で、いきなりこういうモヤモヤが飛び出したのである。ちなみに、この発言をしたIさんはある大手企業の支社で働いている。
「関東でうまくいったから、ほかの地域でもやってみることになったとかで、あるプロジェクトが立ち上がったんです。で、なぜか急にそのメンバーに任命されたんです。やりたいと手を挙げたわけでもないのに、トップダウンで勝手に決められてて‥‥‥。しかたがないので半年間やってみましたが、やっぱり自分がやりたいこととは違うと思ったので、上司にかけあって外してもらいました」
「へえ、あっさり外してくれてよかったね」
と言うと、Iさんは答えた。
「でも、その後がちょっとモヤモヤして‥‥‥。職場の人たちに『すごいな、Z世代やな』と言われました。上司は『本人の意向を聞かず、勝手に任命して悪かった』と謝ってくれたのですが、以来ちょっと腫れ物に触るような感じで、自然に接してくれなくなったような‥‥‥」
あるレッテルで若者を一括りにして語るのは、いま始まった話ではなく、昔からある。わたしが若い頃には「新人類」という言葉があり、「新人類はこうだから」「新人類は平気でこんなことをしやがる」みたいに言われていた。しかし、Z世代はちょっとこれまでと違うように思える。過去の若者世代の呼び名は、どちらかと言えば「なってない」「滅茶苦茶だ」というネガティブな意味で使われていたのに対し、Z世代には「自分たちより正しい」というポジティブな意味が含まれているからだ。
これは、ポリコレに厳しいとか、気候変動などの社会問題に敏感だとかいうイメージのせいもあるだろう。そのため、上の年代の人々は若者を尊重すべきだという前提に立っている。そしてそんな若者の存在を「眩しい」と思いながら、薄暗いところで生活している人がいきなり日差しを浴びるとサングラスを欲しがるように、「煙たい」とも感じている。
「尊重されすぎて、近づいてきてくれない。そんな気がします」
Iさんのこの言葉がそのことを象徴しているように思った。
疎外感なんてぶっちぎろう!
「なってない」世代として否定されるのも、「正しい」世代として尊重されすぎるのも、疎外感は同じかもしれない。しかも、昔と違って若者世代は数的に少ないのだ。
職場でのぼっち感にため息をついている水曜日の「尊重されすぎる世代」のみなさん。無責任かもしれないが、疎外感なんかぶっちぎり、そのまま進んでほしいと思う。どうせ「君らの世代はすごいな」とか言われるのはあと数年だ。その頃には「α世代」が職場にやってくる。10代の子どもを持つ感触から言えば、この世代はさらに正しさを求める傾向がある。
そもそも、いつまでもサングラスがないと日が差す場所に出られないような、薄暗いところに寄り集まっているのがよくないのだ。そんな暗い場所で仕事をしていると、手元がよく見えなくて仕事の効率が落ちるし、見えないからと数字をちょろまかす人も出てくる。
日本の職場の明度を上げていくのは、ぼっち感を覚えているあなたたちだ。ぐっすり眠って、明日も薄闇を明るく照らしてほしい。暗くするのは水曜日の夜の寝室だけでいいのだ。
PROFILE
ブレイディみかこ●英国・ブライトン在住のライター、コラムニスト。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)など著書多数
イラスト/Aki Ishibashi