オダギリジョー&蒼井優が共演! 痛々しいの画像_1
芥川賞に5度ノミネートされながらも1990年に亡くなった孤高の作家、佐藤泰志の原作を山下敦弘監督が映画化。熊切和嘉監督の『海炭市叙景』、呉美保監督の『そこのみにて光輝く』に続く、佐藤の故郷、函館を舞台にした三部作の最終章です。主人公は職業訓練校に通うバツイチの白岩(オダギリジョー)と、動物園で働く聡(蒼井優)のふたり。偶然出会った彼らが、ぶつかり合いながらも交流していく様子を繊細に描きます。ただしふたりの前には大きな試練が立ちふさがるわけでも、そこからドラマチックに再生していくわけでもありません。過去に傷を抱え、なんとなく生きづらさを感じている平凡な人々が出会ったことで、少しだけ日常の景色が明るく見えてくるような物語。 ハッキリ言うと何も起こらない、地味にも映る作品ですが、魅力を一手に引き受けているのが聡を演じる蒼井優。“さとし”と言う男性のような名前について「名前で苦労したけど親のこと悪く言わないで。頭悪いだけだから」と素っ気なく言い放つ白岩との出会いのシーンから、ガシッと見る人の心を鷲掴みにします。ただしこの女性、かなり自由で個性的。男女関係において普段、私たちが「これを言ったら相手に重いと思われそう」とか、「気になっているけどあえて口に出さないでおこう」と思うことを、オブラートに包むことなくフルスイングでぶつけます。 このあたり、正直「うわ、面倒くさい女!!」とも思うのですが、嫉妬や不安やあふれる愛情を隠さない正直さに、清々しさと憧れを抱くのも事実。聡自身は自分の激しさに悩みを抱えていますが、人間関係を円滑にするための建前や自虐やお世辞を身につけ、変に賢くなってしまったアラサー女子にとっては、時に激しく人とぶつかり合い、ストレートな感情を爆発させる不器用な姿が新鮮に映るかもしれません。特に場末のキャバクラで人目もはばからず2人がダンスを踊るシーンの、なんとロマンチックなこと! お互いの過去も弱さも欠点も飲み込んで、ただただピュアに求めあう恋に注目です。 (文/松山梢) ●9/17〜テアトル新宿ほか全国ロードショー ©2016「オーバー・フェンス」製作委員会
映画『オーバー・フェンス』公式サイト