天才数学者が不確かな愛情の尊さを証明する。映画『奇蹟がくれた数式』
2年前の賞レースをにぎわせた『セッション』など、師弟愛を描いた名作映画はたくさんありますが、こちらは教え子の存在によって教授が成長していく様を描いた斬新な物語。“アインシュタイン並みの天才”と称えられる実在の数学者、ラマヌジャンの半生をドラマティックに描きます。舞台は第一次世界大戦下のイギリス。名門ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで教授を務めるG・H・ハーディ(ジェレミー・アイアンズ)のもとに、インドから一通の手紙が届きます。そこには数学者である彼も驚く発見が記されていたのです。手紙の送り主は、正式な教育を受けず独学で数学を学んだラマヌジャン(デヴ・パテル)という青年。ハーディはすぐに彼を大学に招聘することを決意します。
無名の天才がやっと日の目を見るかと思いきや、実はここからがラマヌジャンの苦難のスタート。学歴もなく身分も低いことから多くの教授たちに拒絶され、人付き合いが苦手なハーディともまともに意思疎通できず、“直感”で次々に閃く新しい公式を論理的に“証明”しろと言われて戸惑う日々。さらに厳格な菜食主義者のラマヌジャンにとっては戦時下で食料をまともに確保することも難しく、健康状態も悪化していきます。ただし、ラマヌジャンの忍耐が限界を迎えたとき、初めてハーディは異国で孤独を抱える彼の本当の苦悩に気づき、心を寄せ、距離を縮めていくのです。
コミュニケーション能力の低いハーディが、全身全霊でぶつかってくる情熱的な教え子と交流していく様は、友人とか師弟とかいう関係性を超越した、不器用すぎる初恋を見ているよう。論理的に証明できない人の痛みを初めて知る姿は、切なくも感動的です。さらに注目なのが、ラマヌジャンが祖国インドに残してきた愛する妻との絆。劇中では散々「数式を証明すること」を課せられるラマヌジャンですが、妻への一途な思いを糧に奮闘する姿からは、それを決定づける証明も法則もない、愛情という不確かなものの圧倒的なパワーを突きつけられるようでした。数学の知識がなくても十分楽しめる、異色のラブストーリーです。
(文/松山梢)
●10/22〜角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー