美術品よりも遥かにドラマティック! 波乱に満ちた美術館の250年の歴史をひも解く『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』
世界最大で最古の美術館のひとつである、ロシアのエルミタージュ美術館の裏側に史上初めて迫ったドキュメンタリーです。美術館は美術品を展示する場で、建物自体にそれほどドラマがあるわけではありませんが、エルミタージュは数々の歴史的な出来事が実際に起こった、他に類を見ない美術館です。そもそもはロマノフ王朝第8代女帝エカテリーナ2世が1764年にコレクションを購入し、同年に私的なギャラリーとして美術館発祥の建物(小エルミタージュ)を建設したことが始まり。現在の本館である冬宮は、エカテリーナが実際に住んでいた王宮です。 冬宮を中心に5つの建物からなる美術館は、全部繋げれば20km以上にもなるという超巨大な建物で、風格ある美しい見た目だけでも圧倒されます。エカテリーナ2世はロシアの財力と文化水準を西欧諸国に見せつける政治手段として、次々と絵画や彫刻を購入して壁を埋め尽くしていったそう。その後も歴代皇帝がコレクションを着々と増やしていき、ロシア最後の皇帝ニコライ2世は、最も高価だったからという理由でレオナルド・ダヴィンチの「ブノワの聖母『花を持つ聖母』」を入手したという、なんとも豪快なエピソードも。ただし、1917年にロマノフ王朝の歴史が幕を閉じた後は、コレクションの国外流出や学芸員の理由なき収容所送りなど、美術館は様々な困難に見舞われることに。 特に第二次世界大戦中のエピソードは壮絶。1941年6月22日、独ソ不可侵条約を無視したナチスが突如侵攻してきたことを知った職員たちは、ただちにコレクションの疎開準備を開始。残された学芸員とその家族は美術館の地下に避難し、ベルトを煮込んで食べるほどの飢えに苦しみながら生き延びたそう。当時、命からがら美術館に逃げ込んできた兵士たちに対し、職員が額縁だけが残された空っぽの館内を案内し、そこにかつて飾られていた絵画の説明を聞かせて楽しませたエピソードは感動的。生きることも困難な過酷な状況であっても、人々の心を救い、歴史を守り続けてきたエルミタージュの“美術館”という枠を超えた役割は必見です。ちなみに東京の森アーツセンターギャラリーでは、現在「大エルミタージュ美術館展」が開催中。映画を観たあとに行けば、感動もひとしおです! (文/松山梢) ●4/29〜ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー Hermitage Revealed © Foxtrot Hermitage Ltd. All Rights Reserved.