“難病もの”が苦手な人こそオススメ! 小栗旬と北川景子のリアルな演技に涙する『君の膵臓をたべたい』
ティーンの青春を描いたマンガや小説、その中でも特に“主人公が難病”という設定の物語は、これまでも数多く映画化されてきました。今回紹介する『君の膵臓をたべたい』も、膵臓の病気を抱える少女と同級生の青春を描いた小説の映画化です。この手の映画は能動的に「泣こう」と思う人にとっては外せないジャンルですが、人の生死というセンシティブな事柄を扱っているため、安易に泣かせようとする作り手の思惑が透けて見える作品だとアレルギー反応を起こしてしまう可能性も。さらに「人生でそうそうドラマティックなことは起こらない」と悟るある程度の年齢になれば、設定を聞いただけでしらけてしまうこともしばしば。でも、この作品は、そんなドライな人にこそ観てもらいたいポイントが盛りだくさんなのです。 ポイントひとつめは、ヒロインがかわいそうな薄幸の美少女ではなく、自分の魅力を熟知している、男子を翻弄するやり手の女子に見えること。クラスの人気者の桜良(浜辺美波)は、病院でたまたま同級生の“僕”(北村匠海)に会い自分の闘病日記を見られてしまうのですが、取り乱すでも八つ当たりするでもなく、秘密を共有する同志を見つけたことを喜ぶかのように距離を縮めていきます。それからというもの、クラスでいちばん地味で暗い“僕”と同じ図書委員に立候補して周囲をざわつかせたり、死ぬまでにやりたいことを実行するために秘密の旅行に連れ出したり、宿泊先のホテルで入浴シーンをわざと見せたり……(笑)。「本当に高校生か?」と疑いたくなるほど、男を惑わすテクニックを機関銃のように繰り出します。ただし、病を患っていることはまぎれもない事実。桜良が上目遣いで“僕”をドキッとさせるなど、生命力に溢れた行動を取れば取るほど、根底に抱える死の恐怖との落差が浮き彫りになり、健気な彼女に自然と心を寄せることができるはずです。 そしてふたつめは、桜良と“僕”が恋愛関係ではないということ。お互いに特別な感情を抱いているのは間違いないのに、言葉や態度で表現せず、微妙な距離感で限られた時間を過ごしていく様子がもどかしいのです。あまりにもピュアで傷つきやすくて初々しい関係性は、かつて幼かった自分の青春を思い出すだけでなく、もうその時代には戻れない現実を突きつけられるようで、大人はせつなさに襲われるはずです。そして3つめは、原作になかった12年後がオリジナルで描かれること。母校の教師になった“僕”と、友達思いで勝ち気でまっすぐな桜良の親友・恭子のドラマが展開していくのですが、演じる小栗旬と北川景子の存在感がすごい! ファンタジーのように美しく描かれていた高校時代が、実在感のある2人の演技によって一気にリアルに立ち上がってきます。特に北川景子演じる恭子の存在は不可欠。ドラマティックな運命に翻弄される“僕”と桜良の物語に、観客と同じ第三者の視点からいい意味でツッコミを入れてくれることで、ベタベタした盲目的な恋愛(未満)ドラマでもなく、ただただ重い難病ものでもなく、本当の意味で命の大切さを訴えかける普遍的な映画として成立しています。難病を描いた青春映画が苦手な大人こそ、まずはダマされたと思って観てみてほしい作品です! (文/松山梢) ●公開中