インタビュー後編

誰もが抱えている人生の“想い残し”をテーマに描いた映画『明日を綴る写真館』で2度目の共演をはたした平泉成さんと佐野晶哉さんのインタビュー後編。劇中でカメラマンの役を演じたおふたりに、特に好きなシーンやカメラとの向き合い方について教えていただきました。

平泉成さん
平泉成

ひらいずみ・せい●1944年6月2日生まれ、愛知県出身。1964年、大映京都第4期フレッシュフェイスに選ばれ、1966年に映画『酔いどれ博士』で俳優デビュー。以降、映画、テレビドラマ、バラエティー、ナレーターと幅広く活躍。主な出演作に、映画『書を捨てよ町へ出よう』、『その男、凶暴につき』、『失楽園』、『蛇イチゴ』、『花とアリス』、『シン・ゴジラ』、『天気の子』、『マイスモールランド』ほか多数。秋山純監督の作品には『20歳のソウル』以来の出演となる。

佐野晶哉

さの・まさや●2002年3月13日生まれ、兵庫県出身。アイドルグループ・Aぇ! groupのメンバーとして5月15日にシングル『《A》BEGINNING』でCDデビュー。『Aぇ!!!!!!ゐこ』や『あっちこっち Aぇ!』にレギュラー出演中。ドラマ『年下彼氏』、『ジモトに帰れないワケあり男子の14の事情』、『あなたのブツが、ここに』、映画『真夜中乙女戦争』、『20歳のソウル』などに出演し、俳優としても活躍の場を広げている

 

佐野くんが全力でぶつけた母親への想いに、涙があふれた(平泉)

――完成作品を見て、特に好きだったシーンは?

平泉さん(以下、敬称略):太一が黒木瞳さん演じるお母さんからある写真を見せてもらったあと、お母さんの写真を撮り始めて「きれい」って言うシーン。あそこは、見ていて泣いてしまいましたね。

佐野さん(以下、敬称略):初めて台本を読んだ時から、あのシーンに向けてどう太一を作っていけばいいんやろって不安に思っていたんです。でも、黒木さんがカメラの回っていない裏側でも壁を越えへんような接し方をしてくださったので、本番で太一の葛藤とか迷いとかトラウマが一気になくなって、「おかあさ~ん!」ってなれました。

平泉:太一が家族との埋められない溝を少しずつ埋めていくシーンは全部素敵だったけど、あそこは特にグッときましたね。

佐野:僕が好きだったのは、最後のほうで鮫島さんが太一に「もう少しここで写真を撮るか。一緒に」って言うシーン。成さんのクランクインの日に撮影したんですけど、成さんの人柄と佇まいと安心感のおかげで、セリフを聞いただけで、まだ撮っていない鮫島さんと太一のシーンがすべて蘇ってくるようなパワーをもらって演じることができました。

 

カメラマン役を演じたことがきっかけで、カメラが趣味に!(佐野)

佐野さん、平泉さん

――おふたりともカメラマン役を演じられましたが、ふだん写真は撮られますか?

平泉:50年か60年前に、一眼レフを買って、写真をいっぱい撮っていたんです。でも、ある時、街中にいたおじさんに無神経にカメラを向けてしまって、怖いような悲しいような顔をされたんですよね。それでもう写真を撮るのはやめようと思って、機材も全部売ってしまったんです。子どもができたり孫ができたりして、また写真を撮りたいなという気持ちになってからは再開して、去年はデジカメで富士山や八ヶ岳の写真をたくさん撮っていましたけどね。

佐野:僕は今回演じた役がきっかけで、カメラが完全に趣味になりました! 撮影現場で成さんが昔ライカを持っていたけど、もう売っちゃったっていう話をしていて……。

平泉:ライカ、欲しいなぁ。

佐野:で、この間番組で『太鼓の達人』のフルコンボに成功して賞金100万円をゲットしたんですけど、めちゃめちゃしんどい練習をしながら「これクリアできたら絶対ライカ買ったろ」って思っていたんです。

平泉:すみませんねぇ。そんな、プレゼントしてもらって(笑)。

佐野:あっ、ちがう! 成さん、勘違いされてる(笑)。自分へのプレゼントです……! 成さんの影響で、ライカ熱に火がついてしまったので。

平泉:ぜひ買ってください。

佐野:はい、一生モノにします!

 

――撮影現場では、カメラの話をしていることが多かったのでしょうか?

佐野:今じゃ考えられないような、昔の芸能界の貴重な話も山ほど(笑)。

平泉:僕の青春時代の話だね。当時、すごい先輩たちから「役者になりたきゃ電車やバスに乗れ、スターになりたきゃベンツに乗れ」って教えられたんだよね。ベンツなんか買う金はないから、僕は当然電車やバスだったんだけど、あれはうまいこと言うなぁと思ったね。

佐野:撮影中も、こういう成さんからじゃないと聞けないようなお話をたくさん聞かせてもらって、お芝居だけじゃなくて、人間としても成長させてもらいました!

『明日を綴る写真館』

さびれた写真館を営む無口なカメラマン・鮫島(平泉成)。彼の写真に心を奪われた気鋭のカメラマン・太一(佐野晶哉)は華々しいキャリアを捨て、弟子入りを志願する。写真館を訪れる客と対話を重ね、彼らの“想い残し”に真摯に向き合っていく鮫島に振り回されながらも、自分に足りないものに気づき始める太一。同時に、鮫島と家族の間にも目を背けてきた“想い残し”があることを知り、悔いのない未来のために一歩を踏み出す。

●6月7日(金)全国公開

映画『明日を綴る写真館』公式サイト

撮影/千葉タイチ ヘアメイク/石下谷陽平(平泉さん分) 永井 絵美子(JOUER・佐野さん分) スタイリスト 寒河江 健(Emina・佐野さん分) 取材・文/吉川由希子