羽生結弦、不満が残った初戦に 「こういう状況は一番楽しいです」
優勝はしたものの、納得のいく出来ではなかった。
カナダのモントリオールで開催されたフィギュアスケートのオータムクラシック2日目、フリーを控えた昼の公式練習で、羽生結弦は少し考えている時間が多かったように見えた。さらに、試合直前の6分間練習では終盤に試みた4回転ループ3回がすべてパンク。それにも関わらず、フリー本番ではキッチリと着氷してみせた。 「最近は練習の時にも氷に上がってから3分くらいで体を仕上げて、すぐに曲かけをするという練習を時々やっていますが、その時はループの練習をしないんです。だから6分間練習でループをミスしてもそのままにしていました。昼の公式練習の時には、何もしないでただ場所を変えてやっただけで、一発目できれいに跳べていたので『これは跳べるな。体が覚えているな』と思っていました」 こう話す羽生は、次の4回転サルコウも決めると、スピードのある動きでコンビネーションスピンをこなし、大きくゆったりとした動きの中にキレもあるステップで伸びやかに滑った。ピアノの曲に身をゆだねて舞うような、流れのある演技。強い音がない曲だからこそできる、しなやかな感情が伝わってくるステップだった。
だが、前半最後のジャンプだった3回転フリップの着氷で詰まって流れが少し途絶えると、そこからはスピードが落ちた。後半に入った最初の4回転サルコウからの連続ジャンプは3回転+2回転になり、次の4回転トーループは回転不足で転倒。 その後のトリプルアクセル+2回転トーループはきれいに決めたが、続くトリプルアクセルからの3連続ジャンプはアクセルの着氷が乱れ、とっさに1回転のトーループと1回転ループをつけるだけにとどめた。そして最後の3回転ルッツは踏ん張ることもなく転倒してしまい、疲労困憊で演技を終えた。 結果、フリーの得点は172・27点。合計を260・57点にして優勝はしたものの、納得のいく出来ではなかった。 ミックスゾーンで報道陣に答えた羽生は、「こういう状況で取材を受けるのは、一番楽しいですね」と言って笑みを浮かべた。それは、あまりにも納得がいかない結果に直面し、「もう開き直って前を向くしかない」と自分に言い聞かせているような表情だった。
折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao