12星座全体の運勢

「<新しい日常>への通過儀礼」

暦の上では秋が始まる「立秋」を過ぎて最初の新月を迎えるのが8月19日。それは、暑さが落ち着く「処暑」すなわち太陽が乙女座に入る直前、体感的にも夏の終わりを感じさせてくれる蜩(ひぐらし)の鳴く獅子座終盤あたりで起きていきます。

そんな今回の新月のテーマは、「新しい日常へ」。それはどこか空々しく響いてしまう上からの号令によってみな一斉に同じところから始まるものではなく、あくまでここしばらくの悪戦苦闘や悶え苦しむ期間をやっとの思いで抜け出した結果、流れ着いた先で自分がもうすでに新しい日常に立っていることを後から実感していくはず。夢から醒めた後の起き抜けの朝のひとときのようにおごそかに、しかし、確かにこれまでとは決定的に違う世界にいるという確信を胸に、新たな門出の仕度を整えていきましょう。

「もはや夜はなく、<救い主である神>が人間たちを照らすが故に、ランプや太陽の光は要らなくなる」(『ヨハネ黙示録』第二十二章、5節)

この場合の<神>とは、他でもない自分自身であり、あるいは古い自分を先導する新しい自分のことなのだと思います。

乙女座(おとめ座)

今期のおとめ座のキーワードは、「自分自身への同情表現」。

乙女座のイラスト
ミケランジェロの聖母子像は、マリアが十字架から降ろされたイエスの亡き骸を抱いて慈しみ悲しんでいる姿が表現されたものですが、そうしたマリアの姿をあらわした絵や彫刻のことを<ピエタ>と言います。

イタリア語の<ピエタ>は「慈愛」という意味だけでなく「共感共苦」という意味も兼ねており、この点について取り上げた哲学者のショーペンハウアーは、あらゆる真実の純粋な愛は共感共苦であり、そうでないようなあらゆる愛は自己愛であり、利己心なのだと述べています。

さらに彼の筆致が冴えわたるのは、「泣くことは自分自身に対する同情(共感)である」ということを、ルネサンス期の詩人ペトラルカの歌によって裏付けている箇所で、それは次のようなものです。

思いに耽りつつさまよっていると、/にわかに私自身への強い同情の念が襲ってきて、声を張り上げて泣かずにはいられぬことがたびたびある。/これまではこんな思いをしたことはなかったというのに。

つまり、ショーペンハウアーによれば他人の苦悩を自己の苦悩に同一視するときにのみ、人は愛の業(わざ)や善い行為を行うことができるのであり、彼はそこに「これは自分の苦悩から出てこそじかにわかる」のだと続けています。

そして今期のおとめ座もまた、自分がどんな苦悩を抱え込んでいたのかということを、誰かに対して(同時に自分に対して)泣くことを通じて再確認していくことでしょう。

そのためにも、ひとり静かな気持ちでいられる時間をいかに深めていけるかが、いつも以上に問われていくはずです。


出典:ショーペンハウアー、西尾幹二訳「意志と表象としての世界」(「世界の名著45 ショーペンハウアー」、中央公論新社所収)
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<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ