12星座全体の運勢

「<新しい日常>への通過儀礼」

暦の上では秋が始まる「立秋」を過ぎて最初の新月を迎えるのが8月19日。それは、暑さが落ち着く「処暑」すなわち太陽が乙女座に入る直前、体感的にも夏の終わりを感じさせてくれる蜩(ひぐらし)の鳴く獅子座終盤あたりで起きていきます。

そんな今回の新月のテーマは、「新しい日常へ」。それはどこか空々しく響いてしまう上からの号令によってみな一斉に同じところから始まるものではなく、あくまでここしばらくの悪戦苦闘や悶え苦しむ期間をやっとの思いで抜け出した結果、流れ着いた先で自分がもうすでに新しい日常に立っていることを後から実感していくはず。夢から醒めた後の起き抜けの朝のひとときのようにおごそかに、しかし、確かにこれまでとは決定的に違う世界にいるという確信を胸に、新たな門出の仕度を整えていきましょう。

「もはや夜はなく、<救い主である神>が人間たちを照らすが故に、ランプや太陽の光は要らなくなる」(『ヨハネ黙示録』第二十二章、5節)

この場合の<神>とは、他でもない自分自身であり、あるいは古い自分を先導する新しい自分のことなのだと思います。

蠍座(さそり座)

今期のさそり座のキーワードは、「平常心をめぐる問いかけ」。

蠍座のイラスト
エピキュリアン、つまり古代ギリシャのエピクロスの徒と言えば、ふつう快楽主義者を指して言われる言葉ですが、実際に彼が説いたのは、なによりも心の平静な状態(アタラクシア)を善とすることであり、それは一般的にイメージされる自分勝手で欲望をむさぼる快楽主義とは正反対のものでした。

確かに彼はあらゆる善の基礎を胃袋や性愛や聴覚の「快」にあるとはしていますが、その快とは、「道楽者の快でもなければ、性的な享受のうちに存する快でもなく、なによりも、肉体の苦しみなく魂が平静であることにほかならない」とし、真の快の生活を生み出すものとは、魂に動揺を与えるさまざまな恐怖心を追い払う働きをする「平常心」なのだと考えたのです。

また彼はこの平常心ということについて、次のような言い方でも言及しています。「いやしい魂は、思いがけない幸運によって膨れあがり、不運によって打ちのめされる」のだ、と。

ここでは、魂が「いやしい」かどうかが、平常心が働くか、自分自身が重く静かな存在となり得ているかの基準になっている訳ですが、これは現代人的な感覚からはとても新鮮に映るのではないでしょうか。

そして、ここ10年近くの運気の流れの最終地点にたどり着きつつある今のさそり座にとっても、「魂がいやしいかどうか」という古典的な問いかけは、これまでの経験を通じてどれだけ自分の中で確信が深まったのかを判断する上でとても重要な基準となっていくように思います。


出典:エピクロス、出隆・岩崎允胤訳「エピクロス 教説と手紙」(岩波文庫)
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<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ